7. 「新店」業務の全てを知る

1. はじめに

2. 「新店」の意味と役割
 1.「新店」には2つのタイプがある
 2.戦略的役割とは何か
 3.戦略的役割を持った新店とは
 4.新店業務に関係する部所
 5.戦略新店での業務の進め方
 6.戦略新店とのつき合い方

3. 新店の業務フロー
 1) 出店ガイドライン
 2) 物件探し
 3) 物件判定
 4) 契約
 5) 市場調査
 6) 商圏設定
 7) 店舗基本計画
 8) 概要設計
 9) 届出
 10)本設計、発注
 11)「新店計画書」
 12) 部門構成、ゾーニング
 13) 導線、什器レイアウト
 14) 内装計画
 15) 施工管理
 16) オペレーション計画
 17) 部門毎MD計画
 18)品揃え計画
 19) 新店MD会議
 20) 什器計画
 21) 人員計画
 22) 設備、備品計画
 23) オープン販促計画
 24) 商品発注
 25) オープンチラシ計画
 26) 搬入、陳列
 27) オープン期間中の作業計画、人員計画
 28) オープン前日
 29) オープン当日
 30) 毎日の反省会
 31) オープン1ヶ月検証

4. まとめ

1. はじめに

今回のテーマは「新店業務の全てを知る」です。

ベンダー・メーカーの営業マンにとって、相手企業に「新店」ができるのは、とても嬉しい事です。その分、売上が伸びる訳ですから。
しかし、反面で煩わしくもあり、また悩みでもあるでしょう。
「新店」に関わる様々な業務をバイヤーから指示され、日常業務に支障をきたす、と言った問題も発生するからです。
営業マンにとって、「新店」は”要注意”です。新店を期に、ベンダー・メーカーが変更される事が多いからです。
新規参入の機会でもありますが、現在自分が持っている帳合を他社に奪われてしまう機会、かもしれないのです。
この様に、ベンダー・メーカーにとって「新店」が非常に重要な意味を持つ事は、皆さん十分承知している事でしょう。
しかし、それ程重要な「新店」なのに、ベンダー・メーカーの営業マンが理解している、小売企業の「新店」業務は、バイヤーを通じて知らされている、ごく限られた範囲の業務でしかないのです。
自分達がバイヤーと接して見聞する世界の向こう側に、まったく知らない様々な世界があるのです。その未知なる世界を正しく知り、把握しておかないと、自分達の業務は上手くいかないのです。

今回は新店業務について、その未知なる世界を学びます。

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2. 「新店」の意味と役割

1.「新店」には2つのタイプがある

新店の業務を解説する前に、小売企業における「新店」の意味、役割について整理しておきます。
「新店」には大きく分けて2つのタイプがあります。

従来型をそのまま出店するタイプ
戦略的役割を持って出店するタイプ

従来型をそのまま出店する場合は、定型化され、マニュアル化されている新店業務を、スケジュール通り進めていけば新店は完成します。
もちろん、新たに店を1つ作る訳ですから、それなりの手間はかかりますが、後程解説する「新店計画書」を例にとっても、さほど時間をかけて検討する事なく、完成します。
もっとも、出店ペースが年に1~2店しかない企業の場合は事情が異なります。
従来型で出店する、とは言いつつも、店づくり、売場づくりの各論の段階になると、”従来通り”が消えてしまうのです。
久しぶりの新店ですから、皆”力”が入ってしまい、あれやこれやと議論が始まり、結局はまったく新しいタイプの「店」を作ってしまった、と言う事が多いのです。

2. 戦略的役割とは何か

戦略的役割を持った新店、と言う時の”戦略的役割”とは何を意味するのでしょうか。
ここで言う戦略とは「どこに、どんな店」を作るか、という事です。
これだけの説明では意味がわからないと思います。もう少し掘り下げて説明します。

1)「どこに」の意味

「どこに」出店するか、これを「出店戦略」と言います。次の2項目で構成されます。

商圏規模
商圏特性

「商圏規模」は”車来店10分で5~6万人規模”の商圏とか、”20㎞圏で20万人~30万人商圏”とか言う様に、数値で表わします。
この「商圏規模」は、「店づくり」の基本に深く関わります。
設定した「商圏規模」により、売場面積、MD戦略が異なってくるのです。だから、「商圏規模」をどの位に設定するか、と言う事は、出店戦略の基本問題なのです。
尚、商圏規模を考える時、「世帯数」と「人口数」の2通りの数値を使います。
コンビニ業やサービス業では「人口数」が有効であり、ホームセンターや家具店などは「世帯数」が的確です。
それぞれの業態での購買のされかた、店の利用のされかた、を考えればすぐにわかる事です。
「商圏特性」は内容が複雑です。
予め商圏の特性を示す様々な「因子」を設定しておき、その「因子」の判定によって、その商圏を「○○型」とか「△△型」とか判定するのです。
最もわかりやすく、簡単な商圏特性は、対象地域を「農村型・都市型・郊外型」で区分し、表わす方法です。また、「住宅地・商業地・工業地」という表わし方もあります。
商圏特性を的確に判断し、その結果に対応する事は、全てのサービス業で必要です。しかし、重要度は、業態によって異なります。 例えば、飲食業の場合、出店に際して、非常に詳細な特性分析を行います。一例をあげると、滞在人口と通過人口、オフィス人口と居住人口(昼間人口と夜間人口)、通過客の年代別構成、などです。

2)「どんな店」の意味

「どんな店」には2つの意味があります。
1つは、店舗の骨組に関わる事、つまりその店の見た目のイメージを決める「店舗基本戦略」の事です。
もう1つは、その店舗の中身の事です。中身とは、どんな売場にするか-「平面レイアウト戦略」、どんな品揃えにするか-「MD戦略」、どんな運営、サービスを行うか-「オペレーション戦略」を指します。
それぞれの戦略の内容については、後で説明します。

3. 戦略的役割を持った新店とは

戦略的新店とは、今あげた戦略(出店戦略、店舗基本戦略、平面レイアウト戦略、MD戦略、オペレーション戦略)を根本から見直して、新しい型を生み出そうとする”試みを行う”役割を持った新店、と言う事になります。
このような役割を持った「戦略的新店」の新店業務は、取り組み方自体が、従来型新店の場合とはまったく異なります。

4. 新店業務に関係する部所

ここで、「新店」を担当する部所について解説しておきます。もちろん、各部所の名称、役割分担は企業によって違います。

● 開発部
新規出店に必要な「土地」(これを「物件」と呼びます)を探したり、法令に基づく各種届出をしたり、店舗の建築工事などを担当するのが「開発部」です。

● 企画室
物件が正式に決まると、その物件に「どんな店」を作るのか、という新店の基本方針を決め、各項目の基本戦略をまとめて「新店計画書」を策定するのが「企画室」です。
この「企画室」は、新店が無い時は改装計画の策定や各種のデータ収集、分析を行っています。

● 商品部
企画室が作成した「新店計画書」に基づいて、具体的な品揃え、及び売場づくりを担当します。したがって、什器も担当しますが、企業によっては、什器は開発部、企画室が担当する場合もあります。
「商品部」の品揃え業務は、狭義の品揃えだけではなく、商品発注、搬入、陳列、POP等の店頭販促までを含みます。

● 店舗運営部
「店舗運営部」は、新店業務の全てに関係します。
しかし、当部の最も重要な業務は、建物の引き渡しからオープンセール第3弾位までの、新店運営に関する全ての業務スケジュールを作成し、進渉管理する事です。
オープン前1ヶ月を切ると、各部所の業務が重なり、全体の工程管理をしっかりしていないと、空中分解してしまいます。
特に、建物の完成検査が終ってからは、什器、内装、各種設備の工事が一斉に始まります。さらに、自社従業員による事前準備や、パート・アルバイトの教育もスタートし、建物の中は”てんやわんや”になるのです。
店舗運営に必要な、各種備品の手配、書類の整備も「店舗運営部」の仕事です。

● 人事部
新店に必要な人員を確保するのが「人事部」の役割です。
店長他の店舗幹部は既存店からの異動人事です。その人事案を作成し、役員会に諮ります。
また、一般従業員は既存店からの異動だけでは必要人数を確保できないので、中途採用を行います。その募集、面接、決定、採用後の一般教育までを人事部が担当します。
パート、アルバイトの募集は、店舗運営部が行っている企業が多い様です。
尚、専門教育(知識、技術)は商品部、店舗運営部、システム部が手分けして、基礎教育、OJTを実施します。

● 販促部
「販促部」の役割は、大きく3つあります。
1つは、マーケットリサーチのデータに基づいて、チラシ配布エリアを設定する事です。エリア設定後、売上計画とチラシ予算の算定を行います。
2つ目は、オープン販促計画の立案です。大型店の場合、電波(TV、ラジオ)広告、各種イベントが販促の中心になります。このため、起案は6ヶ月~3ヶ月前に実施する必要があります。
チラシ計画の立案も当部の仕事です。チラシMDは商品部が担当しますが、チラシの骨格は販促部が作ります。
3つ目は、オープンセール中の店内販促です。店舗前の道路沿いに立てるノボリの製作から、店頭の装飾、店内空間を飾るバナー、店内放送の原稿作成など全てを担当します。

5. 戦略新店での業務の進め方

新店業務に関わる各部の役割を解説しました。この構図は、従来型の新店でも戦略新店でも基本的には変わりません。
ただし、部所間の役割の比重、主・従の関係が異なってきます。
例えば、内装について。
従来型新店では開発部が担当し、従来通りの仕様で見積りを取って業者を決める、という方法で進めます。
しかし、戦略新店では、「企画室」が主導して進めます。先ず、従来の内装仕様はゼロに戻します。白紙の状態から検討して、「店舗内装コンセプト」を策定します。
そのコンセプトに基づいて「開発部」が具体的な仕様を研究する、という進め方に変わるのです。
戦略新店では、極端な言い方をすれば、新店に関わる全ての業務、内容に関し、”従来通り”は通用しないのです。
何を決めるにも、その都度、「新店コンセプト」に照らして検討しなおす事になります。したがって、その判定役、調整役を担う「企画室」の役割が大きくなるのです。
新店の持つ戦略的役割がさらに重要になると、役員クラスをトップにした「新店プロジェクト」が結成される場合もあります。

6. 戦略新店とのつき合い方

通常の「新店」でも、ベンダー・メーカーの営業マンは気を引き締めて臨むべきです。新店を期に品揃えの方向性を変える、また、ベンダー・メーカーを変更する、という事がしばしばあるからです。
ましてや、戦略新店の場合、その新店の型(「プロトタイプ」などと呼びます)が、今後しばらく出店される新店で、そのまま採用される訳ですから、重要度ははるかに大きいのです。
また、この「プロトタイプ」は、新店オープン後に検証を行い、修正を加えた後に、既存店も順次、同タイプに改装される事が多いのです。
このように、戦略新店は、小売企業にとって重要な意味を持つだけでなく、ベンダー・メーカーにとっても極めて重要である事をしっかり認識してください。
そこで次に、戦略新店にどのように対応するべきかを考えてみます。
先ず第一は、相手先企業の新店情報をす早くキャッチするアンテナを張っておく事です。法令にもとづく「出店届」を出せば、その時点で情報は”公”になります。各種の業界誌や新聞に掲載されます。
しかし、公になってから動いたのでは、他社に遅くれをとります。新店は”社内決定”をしてから、正式に「出店届」を出すまでにかなり時間がかかります。
役所との間で様々な事前調整が必要となり、その結果を受けて、又社内検討が必要になる、という事のくり返しが続くからです。 遅そくともこの時点で、相手先企業の新店情報をキャッチするべきです。
第二に行うべき事は、新店に対する、自社の取り組み方針を明確にアピールする事です。
具体的には、役員クラスが先方に出向き、「是非、戦略新店作りに協力させていただきたい」と申し出る事です。
この時注意すべきは、自社の取引を拡大させる、という目的だけで申し出をしない事です。「何でも申し付けてください、何でもします」式の協力申し出は逆効果です。
「貴社の戦略新店を一緒に研究させていただく事は、当社にとってもかけがえのない研究の場となります。得がたい機会ですから、ご一緒させていただけるなら、全社をあげて取り組ませていただきます」という態度で臨む事が大切です。

以上、小売企業にとって、及びベンダー・メーカーにとっての「新店」の意味と、「戦略新店」にどう対応するかを解説しました。

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3. 新店の業務フロー

この章では、「新店業務」を体系的に解説します。

体系的に解説、とは言っても、全ての業務を平均的に述べる事はしません。
営業マンが、日頃の業務を通じて、既に理解していると思われる新店業務は説明を簡単にし、その分「未知なる世界」の説明に重点を置く事にします。

ところで、「新店」とは言っても、150坪程度のドラッグストアーから、1万坪もある巨大SCでは業務内容がまったく異なります。
今回は、単独店で、3000坪位までの新店を意識して、物件探しの初めから、新店がオープンするまでの業務を概説します。
ベンダー・メーカーの営業マンですから、それぞれの業務の詳細まで立ち入る必要はありません。

しかし、新店が出来上がるまでに、小売企業の内部では、どんな業務が行なわれているのか、という程度の知識は身につけておくべきです。
そのつもりで勉強してください。

1) 出店ガイドライン

小売企業では、自社の出店戦略を具体化した「出店ガイドライン」を作成しています。
この中では、出店地域、土地の面積、土地条件(道路付け、地形、用途指定等)、取引条件(買取、リースバック等)、地域別の最高賃料、建物の規模などが決められています。
この「出店ガイドライン」に沿って、店舗を建てるための物件を探すのです。物件探しの”地図と羅針盤”の役目を果たす「出店ガイドライン」の作成が、新店の第一歩と言えます。

2) 物件探し

出店用の物件には2種類あります。
1つは、「土地」です。更地を手当てして(購入、賃借)、新しく店舗用の建物を建てる方法です。
もう1つは、「居抜き」と呼ばれる方法です。何らかの理由で撤退(閉店)した店舗跡をそのまま借り受けるのです。
ここ2~3年、売上不振に苦しむ多くの小売企業が、店舗のリストラを進めているため、居抜き物件が急増しています。
土地、居抜きともに、物件を探す方法は同じです。3通りあります。

・自社探索
・紹介
・売り込み

● 自社探索とは、文字通り自社の開発部員が物件を探し出す方法です。出店予定エリアを車で、足で隅々まで調査して、出店候補地を見つけます。
候補地が見つかると、簡単な内部審査を行います。OKなら法務局に行って「公図」を取ります。「公図」と「謄本」によって、その土地の権利関係を確認します。
権利状況に問題がなければ、交渉開始の許可が下ります。
担当開発部員は上司を伴なって、地権者宅に出向き、あいさつします。これから、長い長い交渉が始まります。

● 紹介とは、様々な会社から物件を紹介してもらう方法です。
開発部は物件を紹介してもらうために、あらゆる方面にパイプを張りめぐらしています。銀行、建設会社、不動産会社、デベロッパー、地方自治体など、数十、数百社に及びます。
不動産会社と言っても上場大手だけではありません。小さな町村で社長一人だけで営んでいる様な所まで、開発部員は足を伸ばして、物件紹介を依頼するのです。
デベロッパーの中には、物件ニュースをFAX等で常時紹介してくれるサービスを実施している場合もあります。

● 物件の所有者から直接、売り込みの連絡が来て、それを審査する方法です。居抜き物件に多い方法で、商談が早く決着するメリットがあります。
しかし、この方法は、事前に先方との間で何らかの取引、又はつき合いがないと問題があります。情報の信憑性を確かめるのに時間を要するからです。
ほとんどの居抜きの物件は即断が求められますが、情報に不安があっては判断が下せません。

● 売り込み
物件の所有者から直接、売り込みの連絡が来て、それを審査する方法です。居抜き物件に多い方法で、商談が早く決着するメリットがあります。
しかし、この方法は、事前に先方との間で何らかの取引、又はつき合いがないと問題があります。情報の信憑性を確かめるのに時間を要するからです。
ほとんどの居抜きの物件は即断が求められますが、情報に不安があっては判断が下せません。

3) 物件判定

物件の判定は、いくつかの段階に分けて行います。当然ながら、先に進むにしたがって判定に必要な審査項目が多く、かつ詳細なデータが必要になってきます。
初期の判定は、開発部内で行いますが、次の段階では営業部全体で検討し、更に次の段階では財務も加えて総合的に審査し、最終判断は役員会で決裁されます。
物件判定は、非常に多くの審査項目1つ1つにポイントをつけていく作業です。項目毎の単純な判定作業でも数日、数週間を要します。
しかし、単純判定の結果をそのまま採用して、最終の決裁をする、と言う事はほとんどありません。
経営トップの意向もあります。又、単純判定では「△」の物件でも、その地域は現在、競合A社の独占状態であり、これを何としても打破したい、と言う理由で判定は「△」だが出店せよ、という決裁が下りる事もあります。
この様に、物件の判定は合理性に欠ける一面を持っています。
コンビニや飲食チェーンでは、「物件判定システム」を開発している企業もあります。必要項目の数値を調査し、その数値を入力するとコンピューターが総合判定を下してくれるのです。
システムを導入したある企業では、従来1週間はかかっていた判定が、1日位でできる様になったと言います。
条件の良い物件は、ほとんどの場合、数社間の競争になります。早く結論を出して、契約交渉に持ち込まないと他社に持っていかれます。
反対に、キチンと審査せずに焦って契約すると”カス”をつかまされる事があります。
物件判定の手法、判断ポイントは各社のノウハウで、社外秘になっているため、目にした人は少ないと思います。
私が作った「物件試算表」を参考までに紹介しておきます(図①)。

 

 

図①

4) 契約

物件判定でOKが出ると契約になります。 しかし、判定でOKが出た、と言っても全ての条件がクリアーされた訳ではありません。特に売上予測は、実のところ”エイ!ヤー!”の世界です。1週間や2週間では正確な売上予測は困難です。 もっとも、仮に半年かけたからと言って、その数値が正確か、と言うとそうでもないのです。 マーケティングでは、様々な売上予測理論が発表されています。しかし、どの理論を用いても、正確な売上予測は不可能、と言うのが私の意見です。 「売上」は店づくり、品揃え、販促等の内部要因と、道路状況、競合状況などの外部要因によって、大きく左右されるからです。 したがって、契約は一種の「博打」です。 「売上」以外にも不安要素があります。 例えば、敷地内に農業用水があり、店舗を作るには水路の付け換えが必要である、という物件です。この様な場合、契約書の中に、解約条項を入れておく事になります。 「万一、地元水利組合との調整がつかない場合、この契約は乙側から解除できる」と言う一文です。 契約の方式は次の3つが代表的です。

1. 土地を購入し、建物を自社で建てる
2. 土地を賃借し、建物を自社で建てる
3. 土地を賃借し、建物はオーナーが建てたものを賃借する

契約期間は、以前は15年から20年、と長い契約がほとんどでした。しかし、バブル崩壊以降は、10年以下の短期契約を小売企業側から申し出ています。先が読めないからです。しかし地権者は少しでも長くした方が収入が安定しますから、簡単には応じてくれません。

5) 市場調査

市場調査は何度かに分けて行なわれます。第1次の調査は、物件判定のためのデータ収集の段階で開発部が行います。
しかし、この時の調査は、期限が切られている、判定物件の数が多いので1物件に手間はかけられない、という2つの理由から、市場の概要を把握する程度の内容です。
そこで、契約が完了した物件については、改めて精細な第2次の市場調査を行うのです。
市場調査のデータは後々、商品部の品揃え検討、店舗運営部のサービス内容検討、販促部のチラシ配布エリア検討など、あらゆる場面で使われる重要なデータです。
したがって、企業によってはマーケティングの専門会社に調査を依頼する事もあります。調査費用は内容によってピン・キリですが、3百万~3千万位かかります。
予算のとれない企業は、自分達で実施します。この場合、企画室が全体の取りまとめ役となり、開発部、販促部、商品部、店舗運営部がそれぞれ得意な分野を分担して、調査全体を完成させる方法を取る企業が多い様です。 「調査項目」は、各社毎に、独自に設定していますが、一般的に次の様な内容です。

・住民特性
・経済特性
・商業特性
・交通アクセス特性
・競合特性

市場調査は、調査そのものも重要ですが、集計、作図・作表がさらに重要となります。
そして、データから何を読み取り、店づくりにどう反映させるか、それが最終目的になります。
私の行った市場調査レポートを紹介しておきます(図②)。

 

図②

6) 商圏設定

市場調査の結果をもとに、商圏を設定します。
ところで、「商圏」という言葉の意味を正確に理解しているでしょうか。
マーケティングの本を読んでも、「商圏」と言う言葉の解説は出てきません。
しかし、「商圏」の定義は意外と難しいのです。小売業の現場で使っている「商圏」の意味を、私は次の5種類に整理しています。

1. 距離商圏
2. 交通商圏
3. 設定商圏
4. チラシ商圏
5. 実勢商圏

このうち、1と2は商圏規模を算定し、3の設定商圏を判定するための基礎データとなります。
4はチラシ配布エリアの事です。5は、新店がオープンして実際にお客様が来店してくれているエリアの事です。「来店客調査」を行って判定します。
「新店計画書」では、3の「設定商圏」が重要になります。
この設定商圏の”線引き”は、ここまでは確実に新店の商圏になるだろう、と言うラインと、ここまでの住民には新店に来てもらいたい、と言うラインと2段階で設定します。
「シェア率」から1次商圏、2次商圏、3次と段階的に設定する方法もあります。
商圏の設定には他にも様々な法則、方式が研究されていますが、どれもイマイチで、実務には使えません。
交通商圏特性、競合店マップを考慮した上で、自社の幹部が、既存店の実績を基に判断するのが一番正確です。

7) 店舗基本計画

物件判定の段階で、建物の規模、売場の大きさは一応、決められています。
しかしそれは、契約をするか、しないかの判断をするために、仮に作ったものであって、店づくりの基本から検討を積み重ねた結果ではありません。
物件の契約後、正式に店舗基本計画を検討します。
店舗基本計画とは、次の事項を指します。

・建物の位置、形、規模
・店舗平面レイアウト
・基本設備

● 建物の位置、形、規模
敷地に対し、どの位置に建物を建てるか、そして形はどうするか、という検討です。
何でもない事の様ですが、非常に重要な検討です。
取り付け道路との関係、駐車場の位置とスペース、搬入路のとり方、など様々な事を勘案しなければならないからです。
建物の位置、形が決まると、駐車場との関係から必然的に店舗入口の位置が決まります。入口の位置が決まると売場の取り方がほぼ決まり、同時に売り場面積が決定します。
店舗の形、とは平面だけではありません。正面から見た「建物イメージ」も重要です。
この様に、建物の位置、形の検討は非常に重要であり、この段階での判断ミスは店舗の成否を左右してしまいます。
ここでのミスは後々いかなる対策を講じても、ほとんど挽回不可能です。
したがって、「店舗基本計画」は関連各部所全体で慎重に検討する事が必要です。

● 店舗平面レイアウト
ここで言う「店舗平面レイアウト」とは、店舗出入口の位置、レジ、カウンター、エレベーター、エスカレーターの位置、倉庫の位置及び倉庫との出入口の位置、事務所の位置等を指します。
建物の形が決まった時点で、店舗平面レイアウトはおおよそ決まってしまうのですが、建物の平面図上で、改めて詳細な検討を加えて決定します。
出入口の位置が左右に3~5mずれているだけで、後の導線計画が狂ってしまい、最適な売場が作れない事もあるからです。

● 基本設備
風除室、トイレ、レジ、カウンター、休憩室、倉庫、保冷庫、加工室(SMの場合)などの基本設備は、位置だけでなく、形、サイズ、機能などの概要までを検討します。
8) 概要設計

「店舗基本計画」に基づいて、概要設計を行います。 と言っても、多くの小売企業では設計のできる建築士が社内にいません。設計は社外の設計事務所に委託しています。
設計事務所との窓口は開発部が担当します。
開発部の仕事は、設計事務所に対し「店舗基本計画」の趣旨、意図を的確に伝える事です。ここに不備があると、設計者の独りよがりな店舗が出来上がってしまうのです。
開発部に課せられるもう1つ重要な仕事は、建物をいかに安く仕上げるか、という事です。そのために設計事務所とあらゆる工法、材料、仕様を協議するのです。
さらに、工期を短縮するための設計、工法を検討する事も重要です。工期の短縮は、投下資本の回収を早めます。 「概要設計」とは言っても、実際には「本設計」と同じ内容です。したがってこの概要設計が完成してしまうと、それ以降は大きな変更は出来ないのです。
設計書が完成した時点で「設計見積書」が提出されます。これは設計事務所の試算では、これくらいの費用でこの建物が建てられる、というものです。後に入札を行い、落札価格を決める時の、判断基準になります。

9) 届出

店舗を作るには各種の届出が必要です。
最も重要な届出は次の3種です。

1. 「大店立地法」による届出
2. 「建築基準法」による届出
3. 「消防法」による届出

業種・業態によっては、さらに様々な届出が必要になります。

・食品衛生法による届出(SM)
・薬事法による届出(ドラッグストア)

などです。他にも細かな届出がたくさんありますが、それらは新店がオープンするまでに届け出れば間に合います。
それぞれの届出は所轄の役所が異なり、又窓口も異なります。
ところで、出店に最も重要な「大店立地法」による出店届を出す段階で、建築確認の予備審査(事前協議)が完了している事が、窓口係官から求められます。
しかし、建築確認の予備審査を受けるためには、実際の設計書と同等の書類一式を用意しなければなりません。 と言う事は、出店届を出す段階で、店舗の建物に関する全ての設計書、仕様書が必要になる、と言う事なのです。
この事が後々、様々なトラブルを発生させるのです。
開発部は一日でも早く出店届を出したいがために、社内での十分な検討を待たず「店舗基本計画」を作成し、設計事務所との打ち合わせに入ってしまいます。
商品部や店舗運営部は、「出店届」を出すまでの資料作りは開発部の仕事、と勝手に思い込んでいます。したがって、この段階では内容の検討に加わりません。
出店届後に十分時間をとって検討すればよい、設計書はあくまでも届出用である、と勘違いしているからです。 しかし、先にも説明した通り、出店届用の仮設計書とは言っても、実際には本設計書と変わりありません。作る手間、費用も同じです。
したがって、仮設計書の内容を大巾変更する事は、費用の面で大きなロスが発生します。だから、「仮」がそのまま「本」になってしまうのです。
それなら「仮」を作る段階でもっと真剣に検討すればよかった、と言っても後の祭りです。
大店立地法では、出店による店舗周辺への環境影響調査が義務づけられました。
出店に伴なう周辺道路の通行量予測や、渋滞予測などの交通問題。店舗から排出される廃棄物の処理問題。商品搬入車輌による環境への影響問題。これらを専門機関に依頼して調査し、「報告書」として提出しなければならないのです。

10)本設計、発注

出店届が受理されると「本設計」に入ります。概要設計をベースに最終的な設計仕様を決定します。 本設計が終わると、施工業者を決めるためのコンペを実施します。通常3~5社に参加を求め、入札を行います。
設計事務所が作成した設計図面一式を渡して、指定期日に見積書を提出してもらうのです。
入札内容を検討の上、発注業者を決定します。
これらの業務は開発部が行い、開発担当役員からの報告を受け、役員会で決裁されます。

11)「新店計画書」

出店届が受理され、施工業者が決定すると、新店業務が一気に本格化します。
この段階で「新店計画書」が作成されます。この新店計画書は新店の方針、骨組を決める重要なものです。
先に解説したように「企画室」または新店プロジェクトが担当します。
この計画書には、次の様な内容がまとめられます。

1. 新店の基本方針
2. マーケット分析
3. 店舗基本計画
4. 売場レイアウト計画
5. MD計画
6. 運営計画
7. 数値計画
8. 業務スケジュール

この「新店計画書」は社外秘です。ベンダー・メーカーにはなかなか見せません。しかし、この計画書を読まない事には、新店の内容はわからないのです。1~5の内容だけでも読ませてもらうべきです。

12) 部門構成、ゾーニング

「新店計画書」が作成され、決裁されると、社内の各部所はこの計画書に基づいて、それぞれの業務を進める事になります。
商品部では、先ずはじめに「部門構成」および「ゾーニング(部門配置)」を検討します。
ただし、部門構成に先立ってMD計画が再確認されます。MD計画は新店計画書でまとめられています。
計画書の内容で問題なければ、商品部の作業は、部門構成からスタートする事になります。
万一、計画書の内容に不備があったり、商品部として異論がある場合は、基本方針から再検討します。
部門構成は従来型新店の場合、いちから全てを検討する事はありません。
新店の売場面積、商圏特性が最も似ている既存店を選び、その店舗の部門構成をベースにし、若干の修正を加える程度で仕上げます。
戦略新店の場合は、従来の部門構成をいちから見直す事になります。
この場合、単に部門間の構成比を見直すと言うだけでなく、ある部門の廃止や新規部門の導入、と言った思い切った組み替えが行なわれます。
部門構成の検討結果は「部門構成表」にまとめられます。この「部門構成表」は、部門毎の売り場面積、ゴンドラ本数、売上計画、粗利計画、在庫計画、利益計画等で構成されます。
部門構成と同時に、どの部門を売場のどこに配置するか、という「ゾーニング」を検討します。
ゾーニングは、小売企業各社でそれぞれ自社のMDフォーマットに合わせた”ヒナ型”を持っています。新店でも、このヒナ型通りに配置していきます。
しかし全てヒナ型通りで良い、と言う訳ではありません。新店の売場面積、店形、出入口の位置等を勘案し、調整する必要があります。
食品(SM)であれば生鮮3部門、日配、惣菜を壁面にとり、中島に加工食品を配置する、という基本原則があります。
しかし、新店の導線のとり方、ゴンドラスロット長などを勘案すると、何通りものゾーニング案が考えられます。したがって、その都度検討する事が必要になるのです。

13) 導線、什器レイアウト

部門構成と同時に、導線計画、什器レイアウト計画を作ります。
導線計画は、店舗基本計画の中で既に第一次案は作成されています。
この第一次案をもとに、基本什器、ケース什器、特殊什器及び、レジ、カウンターなどの設備レイアウトを勘案して、メイン導線を決めます。
メイン導線が決まると、売場全体がメイン導線で区切られ、いくつかのブロックが出来ます。
次にこのブロック内の什器レイアウトを検討します。この時、サブ導線の位置、ゴンドラ間通路の巾も検討します。
売場づくりにおいて、通路巾は非常に重要です。食品にせよ、ノンフーズにせよ、部門毎の商品特性、買物特性を考慮して通路巾を検討する事が大切です。
導線、什器レイアウトが決まると、先ほどのゾーニング図面に落とし込み、それぞれの部門の売場面積(ゴンドラ本数)を算出します。
当初計画していた部門構成(面積)と、什器レイアウト後の部門構成(面積)が一致する事はほとんどありません。
そこで、導線の調整、什器レイアウトの調整が必要になります。この調整を何回か繰り返し、当初計画通りの部門構成に収まるようにします。

14) 内装計画

内装とは、店内の見えるところ全ての仕上げの事を言います。
壁、什器、床の色、素材に関わる事から、照明、サイン、空間を演出するオブジェまで巾広い分野が内装です。 一般に店舗の建築では躯体工事、基本設備工事(空調、電気、水周り)を建設会社に発注し、内装工事は専門の業者に発注します。
内装業者は、店舗基本計画書に基づき、内装計画書を作成し、提案してきます。
15) 施工管理

店舗建物の工事が始まると、毎週、施工管理の打ち合わせが、工事現場で行なわれます。
この会議で、工事が設計書通りに施工されているかチェックされ、確認されます。
又、設計書段階では決まってなかった、材料の色や素材の種類の指定、建物細部の収まり確認、など建築工事上のあらゆる事項をその都度検討し、決定していきます。
この会議は、通常、開発部員だけが出席します。しかし、商品部や店舗運営部にとっても非常に重要な会議なのです。
と言うのは、電気コンセントの位置、ドアの開き方、棚の高さ、といった店舗オペレーション、売場作りに欠かせない様々な事項が、この会議で決定されるからです。
陳列時に、見本品を展示し、その電源を取ろうとしたら、コンセントが用意されていなかった。ドアの開き方が反対でコピー機を予定していた所に置けない。
と言った事にならないためには、この会議の内容を社内全部所に伝達し、確認してもらう事が必要です。

16) オペレーション計画

従来型新店であれば、オペレーション計画は簡単に作れます。
店舗オペレーションは、全てマニュアル化されているからです。新店の売場面積、設備状況(駐車場やバックヤード、PC等)、サービス内容等を勘案しながら、計算式に当てはめて、店舗人員数や設備、備品の数量を算出していきます。
このオペレーション計画が完成すると、新店の費用計画が正式に決定します。この時点で改めて損益の試算を行い、営業数値計画を修正します。
戦略新店の場合は大変です。
店舗オペレーションの場合、何か1つの作業をまったく新しいシステムに切り替えるには、短かくとも3ヶ月~半年、長いときは1年以上の準備期間が必要です。それを、新店準備と並行して行う訳ですから、大変です。
したがって、新店で新しいシステムを導入する場合、実際には、仮説を元にオペレーション計画を組む事が多いのです。

17) 部門毎MD計画

部門構成、ゾーニングが決定すると、その内容がバイヤーに伝えられます。ここからがバイヤーの仕事になります。
バイヤーは「新店計画書」や「市場調査報告書」を良く読み、新店の方向性、新店の市場を確認します。
その上で、商品部長が決裁した「部門構成表」で、新店のMDの骨組を十分に理解します。
それから、自分の部門のMD計画に着手します。
「MD計画書」は企業によって書式が決まっています。バイヤーはその書式に必要な数値、文章を記入していきます。
従来型店舗の場合、MD計画をまったく新しく作る事はほとんどありません。
先ず、既存店の中から、今度の新店のモデル店を選びます。多くの企業では、商品部の課長クラスがモデル店を決定し、部下のバイヤーに指示します。
モデル店のMDに対し、新店のMDは、次の要件を勘案して修正するのです。

・地域特性
・競合特性
・ゴンドラ本数の違い

したがって、バイヤーは「MD計画書」を作成する前に、新店の商圏を自分の目で調査します。この時、競合店の調査も同時に行います。この調査には数日を要します。

18)品揃え計画

「部門毎MD計画」が承認されると、いよいよカテゴリー毎の単品までの品揃えに入ります。 先ず、与えられた売場スペースに対し、ゴンドラ毎の商品レイアウトを行います。もちろん、この段階でも、単品までの最終品揃えを意識しながら、商品レイアウトを検討します。
この時参考にするのが、モデル店及び他の既存店の「商品レイアウト図」や「品揃えリスト」、「棚割図」、「棚割写真」です。
商品レイアウトは次の順番で作成していきます。

1. スロット
2. ゴンドラ
3. 棚(バー)

19) 新店MD会議

新店のMDが正式に決定するまでには、何度かの検討会議が行なわれます。
会議の回数や出席メンバーは企業によって異なります。多くの企業では社長も含めたトップが出席し、詳細な検討が加えられます。
会議での指摘を受けて、各バイヤーは自分のMD計画、品揃え計画を修正し、又次の会議に諮って、又修正する、この繰り返しです。
MD検討会議では、品揃えの”根拠”を質問されます。仮にモデル店の通りであっても、そのモデル店の数値分析の結果を報告し、モデル店のMDに問題が無い事を証明しなくてはなりません。
又、競合店分析結果から、新店の品揃えをどのように修正したか、と言う様な質問も出されます。
品揃えの事がキチンとわかっている上司や、幹部なら問題ないのですが、多くの幹部は自分の知識だけでバイヤーの品揃えを批判したり、修正指示を出したりします。
バイヤーにとって頭の痛い、ヤッカイな会議なのです。

20) 什器計画

ほとんどの小売企業は、自社の什器メーカーを予め決めています。
戦略新店であっても、よほどの理由がないと突然に什器メーカーが変わる、と言う事はありません。
「新店」が正式発表されると、什器メーカーに連絡し、予備打ち合わせに入ります。しかし、「MD計画」が正式決定するまでは、打ち合わせらしい事はできません。
什器の総予算は「新店計画書」で決裁されています。ところが什器の詳細は「MD計画」が承認された後でないと具体化しません。
SM、Drg’Sでは売場面積を元に、坪当りの概算単価で算出した什器総額と、実際に作った什器レイアウトから算出した額との差異はあまり発生しません。
しかし、HCや専門店では、売場づくり、陳列方法を変えると、什器内容が大巾に変わり、当初予算と大きく狂ってしまいます。
そうなった場合、什器予算は額が大きいので、「新店計画書」で決定された予算額に対し、増額修正が許可される事はほとんどありません。
バイヤーは止むなく、不具合を承知で予算に合った什器を使う事もしばしばです。

21) 人員計画

従来型新店の場合、必要人員数は簡単に算出できます。
「新店計画書」にはその人数と、人数から算出された、人件費額が計上されます。
しかし、実際に新店のスタッフが決定するのは、オープン3~4ヶ月前です。
既存店から異動します。店長以下の店幹部と社員の必要数の3分の1~2分の1位が対象となります。人選は人事部と店舗運営部が協議します。
大型店や戦略新店の場合、店長、副店長など幹部数人を、新店計画発表と同時に決定する場合があります。 いわゆる”先乗り店長”です。
この場合、新店全体の人員計画も、この店長が立案します。
先乗り店長は、人事だけでなく、新店の全ての業務に関わります。したがって、その企業の中の実力店長、又は、期待度No.1店長が選ばれます。
中途採用は、職種にもよりますが、2~3ヶ月前に行います。
尚、ホームセンターや専門店では、商品知識の習得に時間がかかります。新店オープン時から即戦力となる従業員に育てるために、半年以上前に採用して、既存店で現場実習させる企業もあります。
パート、アルバイトの採用は、店長以下の新店幹部が行います。
採用面接を行う時点ではまだ新店の建物が使えないので、ホテルや取引銀行の会議室を借りて行います。

22) 設備、備品計画

「新店計画書」では、既存店の実績を元に算出した総予算だけが計上されます。
設備、備品は使用量、必要数量が既存店データから簡単に割り出せるので、準備は簡単です。
ただし、企業によっては、その都度、数社から見積りを取ることが義務づけられている場合があり、この作業が大変です。
店舗で使用する事務備品、販売備品は本部で一括発注し、DC(TC)又は本部の備品庫で管理し、店舗からの発注に応じて配送する方式をとっている企業がほとんどです。
新店用の備品は、予めリストで必要量がチェックされ、決められた日に店舗に届けられます。

23) オープン販促計画

オープン時の販促は極めて重要です。たかがオープン期間、数週間だけの販促ではないか、という訳にはいきません。
オープン販促には2種類あります。
オープンの賑わいを演出し、来店していただいたお客様に、より多くの商品を買っていただくための販促、自店のイメージを強烈に植え込むための販促、これらが「店内販促」です。
一方、新店の存在を地域住民に告知し、一人でも多くのお客様店に来店してもらうための販促が「店外販促」です。
オープン販促全体の総予算は既に決まっています。予算の枠内で、店外、店内それぞれの販促ツールをどのように組み合わせ、所定の目的を達成するか、それがオープン販促計画の役割です。
オープン販促については、私が作成した「オープン販促企画書」を紹介しておきます。参考にして下さい。(図③)
オープンチラシについては、別途「チラシ計画書」を作成します。

 

図③

24) 商品発注

新店の発注(初回発注)はバイヤーが行います。
バイヤーは最終の棚割が完成し、上司の決裁が下りると、品揃えした商品を、新店の「店舗商品マスター」に登録します。
この後で、新店の初回発注がかけられます。
発注方法は各企業、様々な工夫を凝らしています。1つだけユニークな方法を紹介します。

● 全単品1個のみ発注
初回発注商品で棚組みを行うには、商品が1個あればそれで作業は出来る、という考えから考案された発注方法です。
ゴンドラに商品を1個だけ置いて棚割を組みます。その状態で棚割図の不具合を修正した上、棚割を確定し、仕切りを固定して、「棚札」を装着します。
その後、新店の売場担当者が主任やバイヤーの指導を受けながら、オープン時に必要な数量を「補充発注」の方法で発注するのです。
この方法は、棚割の不具合がすぐに修正できる、オープン前に店舗従業員の発注、検品、品出し作業の訓練ができる、初回発注での過剰発注を防止する事ができる、という効果があります。

25) オープンチラシ計画

通常、オープンチラシとは次の2つを指します。

予告チラシは、オープン予告内容だけを掲載する場合と、セール商品の一部を紹介する場合とがあります。
セールチラシは第1弾から3弾まで、3本構成で実施している企業が多い様です。
しかし、3本と言う本数には確たる根拠はありません。販促効果だけで考えれば、新店単独のセールを、数ヶ月間続けた方が良いのです。
ただし、それでは製作コストと手間がかかり過ぎて、費用対効果が悪くてたまりません。
そこで、3本位は単独チラシを打ち、その後は共通チラシに戻す、と言う折衷案が生まれたのです。
尚、新店のオープン時は、既存店のチラシも”○○店オープン協賛”というタイトルを打ちます。
ただし、チラシ内容は、新店と同じ場合、一部差し替えの場合、まったく別の場合と3通りあります。
チラシ計画は販促部が立案します。チラシ企画の立て方は、オープンチラシだからと言って、特別の内容、作業方法がある訳ではありません。
品揃え、売価が通常チラシより厳密に、何度もチェックされる、というだけの事です。
ただし、オープンチラシで「日替り」をたくさん打つ場合、店舗運営部との間で、売場スペースの事前調整が必要となる事があります。

26) 搬入、陳列

この業務については、ベンダー・メーカーの営業マンは十分理解しているでしょうから、特に解説はいたしません。
ただし、小売企業側の作業手順の悪さ、作業統括の弱さに、常々腹を立てている営業マンが多いと思われるので、その点を解説しておきます。
手順の悪さ、作業統括の弱さ、ともに組織上の問題です。
原因の第1にあげられるのが、商品部と店舗運営部の連携。
搬入、陳列は一時に数百人の人員が狭い店内で動き回ります。一人のバイヤーの下で数十人、多い時は百人近くのベンダー・メーカーの人員が作業を進めます。
バイヤーが一人ではとてもコントロールできません。
また、商品の移動やダンボールの片つけなど、店舗のパート・アルバイトが担当する作業も数多くあります。
つまり、バイヤーを中心にして、店舗従業員全体が組織化され、臨機応変な協力、応援体制がとれる様になっていないと、搬入、陳列作業はスムーズに進まないのです。
しかし、商品部と店舗運営部の連携が悪いと、店舗側は自分達の作業を優先して、バイヤーに協力しなくなってしまうのです。
第2の原因は、商品部長をトップにしたヒエラルキーの強さ。
ピラミッド型の組織では人材が育たない、などと問題視する人がいます。しかし、フラット型組織が万能かと言えば、そうではないのです。
搬入、陳列作業時の様に、寄せ集めの数百人の作業員を商品部長が一人で的確にコントロールする事など、とうてい出来ません。
かと言って、各作業員が自分の役割を的確に理解して、責任ある行動を取ってくれる事も期待できません。
だからこそ、本部長→部長→課長→チーフ→バイヤーと言う、ヒエラルキーが重要になるのです。
早い話し、オープン搬入、陳列の段取り、作業統括を見ていれば、その企業の組織力、幹部の力量、など全てが理解できる、という事です。

27) オープン期間中の作業計画、人員計画

「オープン期間」という定まった呼び方は無いのですが、一般にオープン初日の前後をこの様に呼びます。
初日以前の1週間位は、準備の最終仕上の期間であり、特別な作業が発生するので、それなりの人員体制がとられます。それでオープン期間に入れています。
初日以降は、オープンセール第3弾までが、オープン期間と意識されている様です。
初日前の数日間には、実にたくさんの作業が発生します。また確認、連絡すべき項目も多くあります。とても店舗従業員だけでは消化し切れません。
当然、商品部は全員が新店に出向きます。それでも人数が足りないので、本部の管理部門や、既存店からも応援が出ます。
オープン初日からのセール期間中は、ベンダー・メーカーにも応援を依頼します。
一日で百人以上、大型店では数百人もの応援者を受け入れる事になります。
これだけの人数を、各作業に過不足なく割り振らなくてはなりません。
小売各企業は、長年の経験を「オープン前準備作業リスト」とか、「オープンセール中人員配置表」とか言う名称のリスト、マニュアルにしてまとめてあります。
「オープン前々日」には、何と何をしなければならない、という具合に、作業名、必要人時数、作業内容が事細かくリスト化されているのです。
このリストに基づいて、作業担当者を時間単位で割り振っていくのです。
この作業計画、人員計画は、店舗の日常業務で行っている「レイバー・スケジュール」の様に簡単にはいきません。エリアマネージャー位の経験、能力が無いと、とても手が付けられません。
作業計画、人員計画が組み上ると、弁当の手配もしなくてはなりません。
小売企業のオープンでは、社員食堂を備えたGMSの大型店は別にして、通常の場合、オープンセール中は店舗側で弁当を用意します。その数は1日で数百食になる場合がザラです。セール期間中で2~3千食になる事もあります。 人員計画が甘く、なおかつ、事前の連絡が悪いと、毎日の様に20~50個の弁当が余るか、足りなくなります。
オープン応援に行った時、弁当の過不足が大きく発生している企業は、それだけでその企業の評価を下げるべきです。
この様に、オープン期間中は、日常の店舗運営とまったく異なった業務、作業が発生するので、特別な組織体制で臨むのです。
シッカリした企業では、事前にオープン期間中の、日毎の運営組織図が作られ、各自の役割が明確になっているものです。

28) オープン前日

オープン前日は、全ての作業を夕方早めに終了させて、全従業員を帰宅させます。
連日のオープン準備作業で疲れがたまっているので、この日だけは早く帰して、明日からのオープンセールに備えるのです。
しかし、準備が完了しなければ、帰したくても帰せません。前々日までに、各作業の進行状況を細かくチェックし、遅くれている作業に人を投入して、遅くれを挽回する対応をしていないと、前日の夜になっても終了しない作業が出てしまいます。
その結果、前日の夜遅そくまで作業して、どうにか売場だけはオープンに間に合わせた。しかし、バックヤードは商品や備品で溢れかえっていて、足の踏み場も無い。と言う状態になってしまいます。
この状態で、オープン初日を迎えたらどうなるか。通常5分で片つく品出しが20分も30分もかかる事になります。 人員はたくさんいても、文字通り、”動きがとれない”状態になってしまいます。
近々オープンする、という店舗があったら、前日の夕方コッソリと店舗の裏に回って、搬入口付近を観察するといいでしょう。
そこがきれいに方つけられ、準備期間中のゴミやダンボールが処理されていれば合格です。 その企業は”見込みあり”です。

29) オープン当日

オープン当日の売場の状況は、ベンダー・メーカーの営業マンならよくわかっているでしょう。そこで売場ではない所を説明します。

● オープンセレモニー
小型店ではほとんど実施しませんが、SCや大型店では必ず行なわれます。
単なる記念行事ではなく、セレモニーそのものをオープン販促のイベントと考えているからでしょう。
方法、内容は企業によって様々です。ブラスバンドを入れて賑やかさを演出したり、プロのDJが司会をしたりします。
オープンセレモニーにテープカットはつきものです。しかし、テープカットを行うと、裏方は実に大変なのです。
自社の社長、地元選出国会議員や市長、地権者など、手に負えない”お歴々”がメンバーになるからです。 新店オープン直前の、猫の手も借りたい時に、この人達のために控え室を用意したり、あいさつに行ったり、専用車のスペースを確保してガードマンに誘導させたり、とにかくめんどうです。店長はやりたくないのです、ホントは。

● ベンダー・メーカーのあいさつ
これも困るのです。しかし、来られたら無視する訳にもいかず、それなりに応対はします。しかし、ハッキリ言って”ありがた迷惑”なのです。
ここで一言アドバイス。
どうしてもお祝いのあいさつをしたい、と言うのなら、行く日と時間を考える事です。
先ず、日にちですが、初日はたくさんの取引先が次から次へ来るので、誰が来てくれたのかよく憶えていない、と言うのが店側の本音です。
したがって、初日に行くのなら、オープン時間の2時間前位までに行くべきです。店舗だけの朝の朝礼が終った直後が狙い目です。
日にちの選定で最高の狙いは、オープン前日。あらかたの準備が終って、ホッとしている午後3時以降が良いでしょう。
もっとも、準備が遅くれて、その時間帯でもバタバタしている様な企業では、このやり方は通用しません。そんな店舗ならあいさつに行く意味もないのですが。

● 出陣式
名称は企業によって様々です。オープン当日の朝、全ての準備が完了し、オープンを迎える直前に行います。
企業トップが先ずあいさつします。ここまでの苦労を労い、この店を当社の看板店舗にしてください、と持ち上げるのです。
次に、従業員代表が決意表明を読み上げます。そして、全員で社是、接客用語を唱和し、最後に、”檄”を飛ばして終了します。

● クレーム対策
オープンにクレームはつきものです。クレームには3種類あります。

1. お客様(店内と電話)
2. 近隣
3. 役所

クレームはたいてい、店長を指名してきます。しかしその都度店長が対応していては、店長は仕事になりません。もちろんクレーム対応も店長の重要な仕事ですが、時と場合によります。
そこで、オープン期間中は、クレーム対応専門の人員を配置しておきます。本部の部長クラスです。クレームが無い時は店内の巡回などしています。
役所からのクレームで最も多いのは、警察です。周辺道路が渋滞するので、”それをなんとかしろ!”と言って来ます。
こうなる事は事前にわかっているので、オープン前に役員クラスが必ず所轄にはあいさつしておきます。もちろん、近隣の交番も。
しかし、それでも大渋滞になると、呼びつけられます。まあ、警察としても、住民からの苦情電話が入ると立場上、何か動かない訳にはいかないのです。それと、彼らのメンツです。
ですから、警察に行くのは店長とか課長ではダメです。「おまえらごときが顔を出す様では、当署もナメられたものだ」という訳です。
企業トップかそれに代わる役職者が出向くと簡単に片つきます。

30) 毎日の反省会

この反省会は、どこの企業でもやっている訳ではありません。
新店の全ての事項は、オープン前に十二分に検討し、チェックしてきたはずです。
しかし、どんなに事前に検討しても、準備していても、いざオープンしてみると、様々な場面、箇所にたくさんの不具合が発生します。
それを、初日の閉店後からただちに確認し、手を打って改善して行く事ができるかどうか、そこが重要です。
オープンセール中は忙しいから何もできません。セールが終ったらなるべく早くに時間を作って対策を立てます。問題点はその時まとめて整理すればいいでしょう。
こう言う企業が、何ヵ月後かに、キチンと問題点を整理し、その改善策を立て、実行したのを見た事がないのです。

31) オープン1ヶ月検証

問題点は日々チェックしていくのが新店の常識です。
そのために、新店の店長は、朝礼や日中の店内巡回で、たくさんの人に声をかけ、自店の不具合を尋ねます。 又、「お客様の声」を集めるためのボックスも用意します。
しかし、これだけでは、新店の仕上り具合を正しく検証する事はできません。そこで、店舗及び本部の全部所が集まった、合同の検討会が開かれます。
店長は店舗を代表して、発言します。
「新店計画書」に記載されている事項、全てが対象です。つまり事前の計画と実際の結果はどうであったか、と言う事を検証して発表する訳です。
判断が正しかった部分、狂った部分を事例、数値を使って具体的に報告します。
店長の発表の後、本部各部の責任者がそれぞれの担当する業務について発表します。
各自の発表後、各項目毎に出席者全員で内容が検討され、対策の立案が指示されます。
このオープン後検証をキチンとやっている企業、それも、1ヶ月後だけでなく、3ヶ月、半年と繰り返し実施している企業の店舗は、オープンから時を経るにしたがい、内容が良くなっていきます。
この検証を実施しない企業は、反対にオープンが頂点で、時間とともに悪くなっていくのです。

以上、31項目の新店業務について、ベンダー・メーカーの営業マンがあまり目にしない部分を中心に解説しました。

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4. まとめ

「新店業務」は、非常に巾広く、難易度の高い業務です。
今回のセミナーで解説できたのは、業務全体の数パーセントでしかありません。
しかし、Webサイト上で、これ以上の解説を行う事は困難です。
このセミナーを契機に、皆さん自身が、相手先企業の新店業務について関心を持って下さい。
そして、自分達が直接関係する業務だけでなく、商品部全体、さらに相手先企業全体の業務にまで視野を広げて、研究して下さい。
次回の「新店」から是非、観察を始めて下さい。2~3回、徹底的に観察すれば、一通りの事はわかるはずです。
「全体」が見えれば、「個」の見方がより明確になる。
このセミナーで何度もくり返して話す言葉ですが、今回のセミナーも、この言葉でしめくくります。

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