8. 「商談」の前後、バイヤーは何を考えているか?

はじめに

商談前のバイヤーの行動

1. バイヤーは誰の指示で動くのか

1)「商品部」の組織
2)バイヤーの上司とは
3)バイヤーは一匹狼が多い
4)なぜ、上司はバイヤーにモノがいえないのか
5)結論

2. 商談内容の決め方、決まり方

1)商談内容は事前に検討されているか
2)”根回し”ができないバイヤー
3)なぜ、事前打合せができないか

3. 個別商談毎の事情

1)商品選定の商談
2)ベンダー・メーカー選定の商談
3)価格交渉の商談

商談後のバイヤーの行動

1)「商談報告書」
2)上司への口頭報告
3)商談内容に対し上司の指導、指示はあるか
4)ベンダー・メーカーへのフォロー

辣腕バイヤーの商談術

1)52週の商談をストーリー化する
2)3~4週分をまとめて考える
3)30分間の台本を書き上げる
4)立居振舞いが”凛”としている
5)「枕」でわかる素養の深さ
6)起承転結の組み立て
7)上司や周りの意見を上手に活用
8)”沈黙”に耐えられる
9)センテンスの短い話し方
10)台本通りに演じ切れる

おわりに

はじめに

今回のテーマは「バイヤーは商談の前後、何を考えているのか」と言う事です。
「商談」は、言ってみれば”戦場”です。そこで、皆さんはバイヤーと戦うのです。
しかし、ベンダー・メーカーの営業マンは戦いに臨む前に、敵の研究をしていない事が多いのです。
これでは、戦いには勝てません。勝ち負けではないにせよ、有利な条件を勝ち取ることはできないのです。

そこで今回は、商談に臨む前のバイヤーの行動、商談が終った後のバイヤーの行動を研究します。敵の動きを分析し、戦いを有利にするために。

>>このページのトップに戻る

商談前のバイヤーの行動

1. バイヤーは誰の指示で動くのか

商談前のバイヤーの動きを知るには、バイヤーの組織上の立場を理解しておく必要があります。

1)「商品部」の組織

どんな企業にも組織があります。小売企業も、大小に関係なく組織があります。
バイヤーはこの組織の中の、どこかに組み込まれています。
小売企業には、「商品部」と言う部所があり、バイヤーはここに所属しています。
「商品部」には、常務クラスの商品本部長がトップに居て、その下に、いくつかの「部」と「課」があり、バイヤーはその中のどこかの「課」に所属しています。
ここまでの事は第6回のセミナーで説明しました。したがって、今回のセミナーでは話をもっと具体的に掘り下げます。

2)バイヤーの上司とは

組織図を見る限り、バイヤーの上には、主任、課長がいます(稀には、いきなり部長になる事もあります)。
しかし、組織図でそうなっているから、と言って、実際その通りに組織が動いている、と思い込んではいけません。
組織図通りに動いていないのが、小売企業の特色(ダメな)です。
その中でも「商品部」は特に組織が不明確です。
バイヤーの仕事を理解する上で、バイヤーの判断基準を知る上で、この点は非常に重要です。
自分が担当する相手先企業の場合、担当バイヤーが日常の実務で指示を受け、何かにつけて報告をする相手は誰か。
さらに、決裁権限を持っているのは誰なのか。
この辺りの事情を正確に把握しておく事が重要です。
この把握が弱いと、商談に臨む前のバイヤーの考え、行動を”読む”事はできません。
組織図通りに、全ての案件が商品本部長のところに集まり、検討の上決裁されている訳ではないのです。
案件毎に決裁のされ方がバラバラ、と言う場合もあります。
建前は組織図通りだが、実際にはケースbyケースと言う企業もあります。
したがって、営業マンは先ず第一に、相手先企業内でのバイヤーと上司との関係を、指示・命令系統と決裁手順の切り口から、しっかり把握する事が重要になるのです。

3)バイヤーは一匹狼が多い

本来、バイヤーは組織人ですから、組織に従うはずです。どこの小売企業でも、そう教育しています。
大手企業になればなる程に、「組織」が強く、「個」は否定されていきます。
「チェーンストア経営」の色合いが強い程に、この傾向が強まります。
しかし、見かけと実際は大きく異なります。
ほとんどのバイヤーは、”一匹狼”的性格が強く、組織への帰属意識が弱い、と言う困った(?)事になっています。
しかし、バイヤーになる者が初めからその様な性格、”一匹狼”的な特性を持っていた訳ではないのです。
初めは皆、普通の組織人なのです。しかし、バイヤーになって、先輩バイヤーの中で仕事を続けていると、その影響を受けて、先輩バイヤーと同じタイプになってしまうのです。 もっとも、オオカミならまだいいのですが、タヌキやキツネ、ウサギのようなバイヤーが多いから、話しは複雑です(タヌキ、キツネ、ウサギに失礼ですが)。
自分はオオカミだと思い込んでいる、ウサギの様なバイヤー。これが始末に悪い。

4)なぜ、上司はバイヤーにモノがいえないのか

商品知識、業界知識が無いからです。いわゆる実務に弱い上司が多いのです。 無理ないのです。多くの企業では、商品課長は、バイヤーを数年経験した優秀バイヤーの中から選びます (稀には、販売部のエリア課長から横スベリと言う例もあります)。
いかに、ある部門で優秀だったバイヤーでも、その実績だけで課長にするのは、始めからムリなのです。
しかし、ほとんどの課長はこうです。
したがって、課長になっても、自分が経験した「部門」以外の「部門」の事は素人と同じです。ベンダー・メーカーの事情から、商品知識まで、全て初歩から勉強です。
しかし、課長としての仕事もあり、勉強は進みません。その結果、実務は全て各バイヤーに任せ切りになるのです。
ベンダー・メーカーの営業マンの前では、それなりの”口ぶり”で話しはしていても、実のところ、商品の事はほとんどわかっていない、その業界の事情はまったくわかっていない、と言う上司が多いのです。
だから、バイヤーに対し、明確な、的確な指示が出せないのです。

5)結論

バイヤーは組織的に動いていない事が多い。
内容に個人差はあるものの、バイヤーは皆、一匹狼的に行動するのです。
そして、上司もそれを見て見ぬふりして、黙認します。
これがバイヤーと上司の関係の基本的な構図です。
この事を理解した上で、個々の事例毎に、実態を把握する事が重要です。
ベンダー・メーカーの営業マンは、何より先に相手先企業の組織の実態、とりわけバイヤーと上司の関係を的確に把握する事が大切です。
それは決して表面的にではなく、本音の部分まで踏み込まなければ、意味がありません。

2. 商談内容の決め方、決まり方

1)商談内容は事前に検討されているか

どこの小売企業でも「商談」は定例化しています。
ベンダー・メーカー側から商談申請する場合、バイヤーから要請する場合、いずれの場合も、「商談ルール」に基づいて「商談日」の”コマ割り”を取ります。
本来なら、この時点でバイヤーは、事前に上司に”お伺い”をたてるべきなのです。いわゆる「ホー・レン・ソウ」です。
そこで、「商談」の目的、内容、ポイント等を報告し、上司の指導を受けるべきなのです。しかし、実際には、バイヤーが自分の判断だけで「商談」を決めている場合がほとんどです。

2)”根回し”ができないバイヤー

“根回し”は、日本社会の特質で、欧米社会には存在しないと言われます。この根回しはビジネスの社会でも頻繁に行なわれてきました。
下打合せ、事前交渉、とも呼ばれています。
しかし、”根回し”が行過ぎると、裏工作、水面下の接渉、談合、という具合に、マイナスイメージが強くなります。
バイヤーがある事項について、商談の前に行うのは「事前の打合せ」の意味あいのものです。
バイヤーは企業を代表して、ベンダー・メーカーと交渉します。しかし、決裁権限は持っていないので、決裁権限を持った上司(課長、部長)と事前に意見調整をする必要があるのです。
この”根回し”は、裏工作ではありません。上司や、関連部所への配慮だと考えるべきです。 課長、部長の立場になってみればわかります。自分の考えと異なる「起案」をバイヤーからいきなり口頭で告げられる。あるいは、文書を見せられる。こうされて気分が良い訳がないのです。
しかし、この根回しが出来ないバイヤーが多いのです。

3)なぜ、事前打合せができないか

様々な理由が考えられます。
又、企業によって、個々のバイヤーによって事情が異なります。一般的に指摘される事は次の通りです。

●バイヤー側の問題
・自分の仕事は自分一人で完結させる、と思い上がっている
・何事も、内容が固まってから、正式に報告すればよい、と考えている
・その都度、「ホー・レン・ソウ」したくとも、肝心な時に上司が離席していて、そのまま忘れてしまう、めんどうになる
・上司に「ホー・レン・ソウ」しても、的確な回答が得られない
・上司がさらに上司、及び関連部所へ「ホー・レン・ソウ」して、回答までに時間がかかる

・部下の独断専行を見ても、関わるとめんどうなので、見て見ぬふりをする
・部下が今、何の仕事をしているか、的確に把握していない
・部下の業務に口出しして、部下から反論されると、それに反駁できないから、口出ししない
・部下の仕事を、途中段階でその都度チェックするのは、時間と手間がかかるので、めんどうくさい
・途中経過をチェックしていながら結果が悪いと、自分の指導不足、自分の判断ミスになってしまうので、チェックしていない事にしておく
・部下が勝手に進めて結果が悪い場合、途中段階で自分に「ホー・レン・ソウ」がなかったと部下の責任にする事ができる

おおよそ、この様な事情です。
つまり、小売企業の組織は、本部長→部長→課長→バイヤーと、組織的に行動し、組織内の指示命令系統によってコミュニケーションが交わされている。この様に見えるが、実態はまったく違う、と言う事です。
商品部全体が、「個」の集りでしか無く、統制がとれていない、という企業が多いのです。 ベンダー・メーカーの営業マンは、自分が担当する企業の組織の実態、「ホー・レン・ソウ」の実情を、日頃から注意深く観察しておく事が重要です。

3. 個別商談毎の事情

商談に関わる小売企業側の事情が、整理できたと思います。 次に、個別の商談内容に踏み込んで解説します。

1)商品選定の商談

どのメーカーの、どの商品を選ぶか、この判断をする時、バイヤーは商談を前にどう行動するでしょうか。
その前に、商品選定の商談を次の4つに分類しておきます。

1. 定番
2. 季節定番
3. 企画・催事
4. チラシ

1. 定番商談の場合
「定番」商談には、年に1~2回行う、定番改装(売場マッサージ)の商談と、新商品や、話題商品をその都度紹介する商談があります。
定番改装は、事前に企画案を作成し、上司のチェックを何回か受ける事が定例化しています。
この商談については皆さん十分承知していると思われますので、今回は解説しません。 新商品や話題商品等の定番追加商談の場合、バイヤーは、自分の判断だけで決裁しています。
上司に「ホー・レン・ソウ」する事は少ないのです。
日々の商品マッサージは非常に重要なMD業務なのに、この事に対し、小売側は意外と意識が低いのです。
小売企業の悪いクセで、目立たない事、小さな事には無関心です。

2. 季節定番商談の場合
この商談では、上司と協議する回数が増えます。季節定番は商談の花形ですから、上司も力が入ります。
しかし、上司の指導、指示は細部に集中する事が多いのです。
全体の方向性はそっちのけで、自分が気付いた細かな点だけを指摘するのです。これでは、方向性がなかなか決まりません。
その結果、商談は、何回も何回も、同じ内容がくり返される事になります。
1回目の商談で、方向性(戦略)が説明され、2回目で商品構成、3回目で条件面、4回目でスケジュールと作業内容、と言う具合に進めるべきなのに、そうならないのです。
その理由は、バイヤーと上司の間で、その様な事前打ち合わせが行なわれていないからです。

3. 企画、催事商談の場合
季節定番と事情は同じです。
ただし、企画、催事の商談は季節定番の様に定例化していません。そのため、上司の関心が今一つ高くありません(食品では高い様ですが)。
したがって、バイヤーが独自の判断で決裁してしまう場合も多い様です。

4. チラシ商談の場合
最近「CRM」が叫ばれ、チラシの効果について、疑問が投げかけられています。しかし、現場ではまだまだチラシに頼った販促が行なわれています。
そのため、チラシの品揃えを担当するバイヤーは、1週間の業務の中で、チラシ商談に多くの時間を費やしています。
ところで、チラシの品揃えはバイヤーが勝手に一人で決める訳にはいきません。
チラシの内容は「販促会議」で検討され、決定されます。(チラシについては第5回のセミナーで解説しているので、読み返して下さい)。とは言っても、会議で全ての事が決められる訳ではありません。
大枠は決められるものの、詳細は商品部に一任されるのです。
にもかかわらず、会議後に上司から、各部門バイヤーに具体的な品揃えの指示が出ないのです。
なぜ指示が出ないのか。上司にはチラシについて、大枠から各論に展開する知識、技術が無いのです。
品揃えも、チラシ売価設定も、わからないのです。どうしたらチラシがヒットするか、自信を持ってバイヤーに指示できないのです。
したがって、バイヤーがチラシ商談をする時点では、今回のチラシの品揃えをどうするか、売価をどうするか、バイヤーの考えはまとまっていない、と言う場合がほとんどです。
いくつかのベンダー・メーカーと商談し、その結果でチラシMDを組もうと考えているのです。
商談をして、ベンダー・メーカーの意見を聞き、それを参考にしないと、チラシリストが作成できないのです。
リストを作り上げた時点で、初めて上司のチェックを受ける事になります。しかし、この時も又、上司ははっきりと可否を回答しません。
しかし、時間が無いので、上司の決裁は無くても、チラシリストは販促部に提出されます。
そして、販促部から、製作会社に渡ります。
何日後かに「校正紙」という、目に見える形で戻って来ます。
この時になって、上司も、部長も、店舗運営部も、一斉に意見を出して来ます。
目に見える形の「校正紙」であれば、意見を言う事ができるのです。
今まで何も発言しなかった人達が、各自勝手な意見を出してきます。
その内容を整理して、それぞれの意見に応える様バイヤーは、チラシの品揃え、売価を変更しなければなりません。
しかし、チラシ製作は短期決戦です。時間が無いのです。商談は電話でのやりとりになります。
ここまでの説明でわかったと思います。「校正紙」が完成した時が、本当の意味でのチラシ検討のスタートなのです。
事前のチラシ商談は、ダミーのチラシを作るための打ち合わせにすぎない、と言う事です。もちろん、これ程ヒドイ企業ばかりではありませんが。
チラシ商談の場合、先ず第一に、先方のチラシ製作の業務フローを把握するべきです。
その上で、バイヤーはどの時点で、誰から、どの様な指示を受けるのか、を確認します。
さらに、「校正紙」が完成してからの、修正、決定の手順をしっかり把握しておく事が大切です。

2)ベンダー・メーカー選定の商談

1. べンダー・メーカー政策について
ベンダー・メーカーを選定する、変更するための商談があります。
ベンダー・メーカーにとっては、死活問題の商談です。この商談の場合、バイヤーは事前にどの様な行動をとるのでしょうか。
残念ながら、通常商談とあまり変わらないのです。ベンダー.メーカーにとってこの商談がどれ程重要なのか、バイヤーもわかっていない訳ではないのです。
それなのに、なぜ通常商談と大して変わらないのか。
その理由の1つは、日頃、上司からこう言われている事にあります。
ベンダー・メーカーを変えることを恐がるな、過去のつき合に縛られるな、ベンダー・メーカーなどいくらでもある。
小売企業は、表立っては、「お取引様との共存共栄」「コ・ワーキングによる新しい小売・ベンダーの関係」とか言うのです。
しかし、本音では、ベンダー・メーカーを自分達より低く見ています。
安い価格を出すのがベンダーの役目だ。条件が良いメーカーならどこでもかまわない。こう考えているのです。
ハッキリ言って、自社のMD戦略に基づいた「ベンダー・メーカー政策」を策定している小売企業は、ほんの少数です。

2. ベンダー・メーカー選定商談の実態
この様な状況の中で、ベンダー・メーカー選定のための商談は、どの様に行なわれているのか、それを説明します。
ベンダー・メーカーを選定する(変更する)場合、次の3つが契機となります。

1. 経営トップからの指示
2. 商品部トップ(部長、課長)からの指示
3. バイヤー自身による起案

1.の場合、銀行や証券筋からトップに打診される事が多い様です。トップは「よろしく頼む」と現場のトップに伝えます。経営トップからの指示なので商談はすぐに始まります。いわゆる”トップの意向”と言うヤツです。
商談は、商品部トップが直接進めます。
こうなるとバイヤーはもう”カヤの外”です。

2.の場合、部長、課長の人脈(パイプ)を経由して、新しいベンダー・メーカーが紹介される事が多い様です。
部長、課長も立場上、商談をやらずに”即決”する訳にはいきません。そこで形式的にバイヤーに検討を指示します。
しかし、本音ではすぐにでも口座を開設し、取引きを始めたいのです。だから、バイヤーの商談が長引くと、イライラするのです。
それなら、自分で直接商談をすれば良いのですが、経営トップ程の行動力も、決断力もないので、自分では動きません。バイヤーに押しつけるのです。

3.の場合、様々な問題があります。
第1はバイヤーの実力です。
この場合、MD力と言う事ではありません。上司、及び部長、役員に対する発言力、説得力を指します。
さらには、関連する他部所への根回しの力です。
新規のベンダー・メーカーとの取引開始までには、実に様々な紆余曲折があります。 これを乗り切って自分が推選する新規取引先を役員会で認めさせるのは、相当な実力がないとできないのです。
バイヤーは、新規取引先のメリットを、それぞれ立場が違う上司や関連部所の責任者に説いて回るのです。
その感触をもとに問題点を整理して、商談に臨み、取引先と一緒に問題の解決策を検討するのです。
したがって、商談の進み具合はバイヤーの社内根回しの進行状況に左右されるのです。 第2の問題は、既存のベンダー・メーカーとの”いきさつ”です。
課長や部長は、「過去のいきさつにこだわるな」と口では言うのです。しかし、これは建前、一般論です。
あるバイヤーが新規取引先を開拓し、定番の帳合いをその新規ベンダーに変更しようと、検討しています。
新規が入れば、一方で切られるベンダーが、あります。この時、その取引先が万一、部長がバイヤー時代に口座を起こしたベンダーであったらどうなるか?
バイヤーがいくら口座開設を申請しても、決裁が下りません。かと言って完全に却下もしないのです。それでは自分の責任になるからです。
バイヤーからの報告に対し、毎回、問題点を小出しに指摘するのです。バイヤーはその指摘された問題を解決すべく、商談を行い、対策を練ります。
改善案を持って、上司に報告に行きます。その件に対しては、OKが出ます。これで決裁かと思うと、又別の問題が指摘される。
という具合です。
この様な内容の商談が繰り返えされたら、もうダメです。担当バイヤーといくら商談を重ねても、口座開設には至りません。

3)価格交渉の商談

価格交渉には、2通りあります。
第1は、その企業での新規取扱いに際して納入価格を取り決める時。
第2は、既に取引きされている商品の納入価格を見直す時。

第1の場合
その商品がナショナルブランド商品で、既に他のベンダー扱いで取引きがあれば、商談は比較的スムーズに進みます。
バイヤー及び上司も、定価の「○○%引き」あるいは、実数値で「○○は△△円」と、明確な基準数値を持っているからです。
商談そのものは,数値をめぐって、双方が厳しいかけ引きを展開します。しかし、双方とも数値の”落し所”を持っているので早い時期に決着します。
上司はバイヤーに対し、「現状より○○%ダウンを狙え!」と言った指示を出します。 仮に商品知識が無く、業界情報に疎い上司でも、この程度なら、なんとか対応できます。 現在までの販売実績もあるので、数値目標が立てやすいのです。
ところが、今まで扱ったことのない分野の商品、まったく新規のブランドを扱う場合はやっかいです。
ベンダー・メーカー側も手探りです。どれだけ売れるか、予測がつかないからです。
バイヤーは類似商品の過去実績から販売数を予測します。
その数値を元にして、仕入価格の接渉を行いますが、落し所がわかりません。
こうなると、商品力、接渉力の無い上司ではまったく対応できません。バイヤーから上がってくる数値に、ただ徒らに「もっと安くならないのか・・・」「あと○○%は下がるはずだ!」と根拠の無い指示を出すだけで、具体的な対応がとれないのです。
上司自身も、最終的には自分の上司に報告し、決裁を受けなければなりません。
その時、バイヤーから上がった見積数値で、上司を説得する自信がないのです。
この状態での価格交渉は手間取ります。小売企業側に、強力な決裁権限者が居ない時は、商談を一時中断するべきです。
その上で、相手側の状況をじっくり分析する事が必要です。

第2の場合
この価格商談は、経営トップもしくは商品部トップから指示が出される事が多いのです。 バイヤー独自の判断で、この商談をしかけてくるとしたら、そのバイヤーは相当に手強いので、要注意です。
経営トップ及び商品部トップは、何かの機会にフトこう考えます。
「当社の仕入原価接渉は、誰がどうやっているのだろうか。ベンダー・メーカーに厳しい条件を突きつけ、当社に有利な価格が出るまで粘り強く接渉しているだろうか・・・」。 こう思ったらもうダメです。経営トップは、一度、不安に陥ると”負のスパイラル”へ一気に落ち込みます。
誰が何と説明しようと、バイヤーが日頃地道な価格接渉をしていても、そんな事まったく信じません。言う事は同じです。
「君達の考えは甘い。交渉すればもっと下がるはずだ。ベンダー・メーカーを甘やかしたらダメです!」
その結果、現状の仕入原価に対し、「全社で○○%の引き下げ、仕入原価総額で○○○万円の値下げ」と言う目標値が設定されます。
各部、各課、各部門にこの数値が振り分けられ、ノルマが課されます。バイヤーはノルマを達成するしかないのです。
この価格商談では、バイヤーが出した数値は絶対です。
しかし、営業マンは自社の納価の引き下げを少しでも押さえなければなりません。
でも、その交渉は、バイヤーを相手にしたらダメです。
バイヤーはノルマを達成するしか道はないのです。ノルマの数値そのものを修正するだけの力は、バイヤーにはありません。
したがって、バイヤー、課長を飛び越えて、商品部長、必要なら事業室長と直接交渉をするしかないのです。それ位の覚悟を持たないといけません。
バイヤーを窓口にして交渉を重ねる事は、バイヤーを追い込むだけです。プラスになりません。

>>このページのトップに戻る

商談後のバイヤーの行動

1)「商談報告書」

商談が終ると、バイヤーは商談内容を「報告書」にまとめて、上司に報告します。
「商談報告書」、「商談結果報告」とか、企業によって名称は異なります。
この「報告書」、ルールでは1回商談をする毎に提出する事が決まっているのですが、実際には運用されていない企業が多いのです。
ヒドイ企業では、「報告書」をベンダー・メーカーに書かせます。
商談内容を営業マンにメモさせておき、「報告書」のベンダー・メーカー欄に記入させるのです。
ベンダー・メーカーが報告書を作成する、というのは、それはそれで意味ある事です。
しかし、ベンダー・営業マンが記入しているから、と言って、バイヤーが何も書かずに済ませてしまっていい訳はありません。
自分の欄に「左同」と記入しただけで、上司に提出してしまう。こんなバイヤーもいるのです。
そんなバイヤーがバイヤーでいられる企業では、「報告書」を受けた課長も、部長も、形式的に承認印を押すだけです。中身などまったく無関心で読まないのです。
後は事務担当がまとめてファイルに保管します。これにて一件完了。
一度、自分が担当する企業の「商談報告書」が、バイヤーから先、どの様に運用されているのか、さりげ無く聞いてみると、おもしろいですよ。

2)上司への口頭報告

仮に、運用が杜撰でも、「報告書」が作成されていればまだ少しは安心できます。とりあえず、商談の内容が記録に残って、保管されるからです。
「報告書」を書く事がルール化されていない。商談内容は、バイヤーが直接口頭で上司に報告するだけ、という企業は問題です。
そんな企業では、実際には、ほとんど報告がされていないからです。
報告が行なわれない理由は、いくつかあります。

・報告内容をまとめるのが、めんどうくさい
・報告しようと思った時、上司が離席していた
・報告しても上司から何のリアクションも無いのでバカらしい
・商談日の翌日から両者が外出していて、すれ違い

この程度の理由で、商談報告がないがしろにされてしまうのです。
仮に商談報告が行なわれたとしても、所詮は”口頭”での報告です。内容はヒドイものです。
何よりも問題なのは、口頭報告では、形に残らない事です。日にちが経つとバイヤー、上司、両者ともに内容を忘れてしまう事です。
商談があった事すら、忘れ去られてしまう事もあります。
又、バイヤーが故意に商談内容を変えて報告したり、ある部分を伏せて報告する事もよく見かけます。

3)商談内容に対し上司の指導、指示はあるか

企業により、上司により、状況が大きく異なります。
しかし、一般論で言うと、先に説明した通り、商品部は組織的な仕事のしかたが確立していない部所です。
そのため、商談後の指導、指示もあまり行なわれていない場合が多いのです。
上司にしてみれば、自分自身の業務に追われ、部下の仕事のひとつひとつにまで、気をつかっていられない、というのが本音です。
部下からの報告があっても、「わかった。順調に進んでいる様なので、当面は君にまかせる。何か問題があったら言って来てくれ。その時は対応する」という具合です。
“順調”かどうかを判定する、問題が起らない様に事前にチェックして対策を立てる、それが上司の役目のはずです。
それなのに、事が起こらなければ動かない上司が多いのです。
結局のところ、バイヤーは自分一人で仕事をしているのと同じ事です。
こんな状況ですから、バイヤーが一匹狼になるのも、止むを得ない一面もあるのです。

4)ベンダー・メーカーへのフォロー

皆さんが取引きしている企業のバイヤーは、商談が行なわれた翌日、必ず連絡してきますか。
何か要件があれば、それは当然連絡してくるでしょう。
そうではなく、急ぎの要件がなくても商談の翌日、必ず連絡してくるバイヤーが居たら、そのバイヤーはなかなかの切れ者です。
「昨日はごくろうさん」、「あの件はどうだろう?」、「価格の件、課長にはもう報告してくれた?」という具合に、昨日の商談についてフォローの電話を入れて来るバイヤーはいますか?
辣腕バイヤーともなると、さらに、営業マンの上司に直接電話してきます。「昨日○○さんに△△の件を話しておいたけど、課長さんの所へ報告上がってますか?」と。
辣腕バイヤーは、こうして、商談の「先手」を取るのです。
「先手」の重要性は、囲碁、将棋の世界だけではありません。
ビジネスもまったく同じです。「先手」が全て、とは言いませんが、先手を取られると、挽回するのに時間と労力が必要です。
商談の後、当方から連絡しない限り何も言って来ないバイヤー。これは楽です。
連絡が来ない、と言う事は、バイヤーの上司も商談内容について、バイヤーに何の指示も出していない、と判断してまちがいないでしょう。

>>このページのトップに戻る

辣腕バイヤーの商談術

商談に臨む前のバイヤーの行動、商談が終った後のバイヤーの行動、について解説してきました。
ここまでで、当初予定していた今回のセミナー内容は終るのですが、”おまけ”をつけたいと思います。
それは「辣腕バイヤーの商談術」です。辣腕バイヤーの商談ノウハウを解説します。 皆さんはベンダー・メーカーの営業マンです。
バイヤーの商談術を勉強してどうなのだ、と思うかもしれません。
しかし、それは違います。辣腕バイヤーの商談術を”裏読み”する事で、自分の商談スキルが大幅に向上するはずです。
そう考えながら読んで下さい。

1)52週の商談をストーリー化する

ドラマの脚本を書く時、いきなり第1回の第1章から書き始める作家はいません。
先ず、大筋をまとめ、次に全体の回数を考えて、山・谷のメリハリを考えます。喜怒哀楽、緩急のメリハリです。
そのメリハリを回数のスケジュールに落し込んで、全体の構成を調整します。
こうして、全体が40回であれば、40回のストーリーの骨組を先ず作るのです。
商談も同じです。1年分の1回毎の内容を事前に詳細に組み立てておく事は不可能です。 しかし、52週の流れを作っておく事は絶対必要です。

2)3~4週分をまとめて考える

年間の商談をストーリー化するだけでは、不十分です。
3~4回分の台本をまとめて考える事が大切です。
商談は前後のつながりが重要だからです。
明日の商談では、ここを激しく攻めておき、後日、電話でフォローし、来週の商談では、この問題は、わざと触れない様にして先方の出方を探り、何のアクションも無い様なら、こちらもとぼけていて、来々週の商談で部長を呼びつけて、一気に片をつけてしまおう。
こちらは役員を同席させ、有無を言わせない態勢で臨む、そのためには部長に話しをつけておこう。
こんな具合です。今週の商談の事だけ考えている様では、まともな商談はできません。

3)30分間の台本を書き上げる

通常、商談は30分が単位です。
事前にこの30分間の台本を書き上げる事が大切です。
当日の出演者(出席者)にあてはめて、”台詞”までも書ける位でないといけません。台詞だけでなく、”間”の取り方まで。
商談はバイヤーの「独り芝居」ではない。相手(ベンダー・メーカー)があることだから、”台詞”や”間”など事前にわかる訳ない。と反論する程度のバイヤーでは辣腕バイヤーにはなれません。

4)立居振舞いが”凛”としている

バイヤーは、狭い商談室の中で、自分独りで、ベンダー・メーカーの営業マンと対決しなければなりません。
話し合い、だの、お取り組み、だのキレイ事を言っても、とどのつまりは、勝つか負けるかの真剣勝負。
商談室に入って来るその姿を見ただけで、バイヤーの能力はわかってしまうのです。

5)「枕」でわかる素養の深さ

商談だからと言って、いきなり商品の検討、価格の交渉に入る様ではいけません。
「枕」とは、寝具のマクラではありません。
「落語」の「枕」です。名人、上手ほどに、この枕がスバラシイ。
商談とて同じ。いきなり本題に入るのは、力の無い証拠。焦りの表われです。
辣腕バイヤーは、先ず絶妙な「枕」でしかけてきます。ベンダー・メーカーの営業マンが「枕」に乗りかけて来た所でスーと、本題に入ります。こうして、自分のペースに嵌めるのです。
しかし、素養の無いバイヤーが、辣腕バイヤーの真似をして「枕」を演じてもダメです。「枕」は一日にして成らず。

6)起承転結の組み立て

「枕」がいかに上手でも、それだけでは商談になりません。
本題の組み立てが大事です。30分間をどう組み立てるか、そこが商談では最も肝心です。 事前に台本が出来ていても、台本の棒読みでは勝てません。
「起承転結」をどう時間配分するか。そこが肝心です。
いきなり、「結」から始める”倒置法”的な商談もあります。「起承」にたっぷり時間を使い、「転」「結」と”一気呵成”に攻め落とす商談もあります。辣腕バイヤーは、この演出が上手です。
ダメなバイヤーは、時間の配分も、緩急も何も考えずに、ダラダラと”一本調子”で進めてしまうのです。

7)上司や周りの意見を上手に活用

見かけだけの辣腕バイヤーは、何かにつけて、自分を誇示します。「ボクはネ・・・」「俺はこう考えてるんだ」「私の判断では・・・」と言う具合に。
しかし、真の辣腕バイヤーは、上司の意見や、周りの考えを上手に活用します。
「私は御社のこの企画でいいと思っているんだ。よく出来ている。しかし、課長がネ、ここの所をもう少し、こうしたらどうか、と言うんだ。考えて見ると、たしかにここの所を課長に指摘された内容に修正すると、全体がまとまるよネ。」
と言う具合です。
さらに、このタイプの辣腕バイヤーは、実力店長の名前を時々登場させて、営業マンを”牽制”する、高度なテクニックも使います。

8)”沈黙”に耐えられる

条件接渉などでよくある情景です。
条件が折り合わず、どちらも手詰まり。商談室は重い沈黙が続く。
また、こんな場面もあります。
今日は取引条件の最終接渉。どちらも自分の条件を切り出せない。話しが途切れて、沈黙となる。
沈黙に陥った時、平然としていられるバイヤーは、胆がすわっていて、掛け引きに強い。
沈黙に耐えられず、すぐにベラベラとしゃべり出すバイヤーは、組み易し。

9)センテンスの短い話し方

「話し方」と「思考」は密接な関係があります。
センテンスの短い話し方をする人は、思考が明解です。したがって、”押し”が強いのです。
反対に、長いセンテンスで話す人は、自分の考えに自信が無い人(ただし、政治家と芸術家は除く)。

10)台本通りに演じ切れる

いくら見事な台本があったとしても、それだけではダメです。
バイヤーは、自作・自演です。しかも演出、監督まで独りでこなします。
この中で、バイヤーが一番苦手なのは、役者を演じる事でしょう。台本通り演じられないのです。
緩急、喜怒哀楽、と言われてもテレてしまって、いつも通りの自分をさらけ出したままで、30分の舞台を通してしまうのです。
これでは、観客を唸らせる事はできません。
辣腕バイヤーは、仲間や上司が見ていても、平気な顔して、様々な”役”を演じ通す事ができるのです。

おわりに

今回は「商談」に関わるバイヤー及び小売企業の事情を解説しました。
毎回、同じ事を書きますが、私はどちらの味方でもありません。
バイヤー、営業マン相方が知識、技量を磨いて、レベルの高い”好勝負”をして欲しいのです。
当事者は大変ですが、私は第三者です。
観客としては、やはりレベルの高い試合を観たいのです。
試合レベルが高まれば、観客=買い物客、もたくさん集まるはずです。
それでは、次回をお楽しみに!