6. 何でもマトリックス

マトリックスの本質.......マトリックス思考

子供のサッカーを良く見ている。たまに遊んでもらったりしているが、子供たちの能力、得手不得手、試合の時のチームごとの特徴など断片的に見ていると漠然としか見えてこない。
ところが、これをマトリックスに整理してみるととても良く分かる。
例えば、子供の名前を表側(マトリックスの縦軸;基本的に見たい内容を採る)にとって、表頭(マトリックスの横軸;基本的に見たい内容の内訳を採る)にサッカーで必要になるさまざまな項目を採ってみる。蹴り方、キック力、走るスピード、敏捷性、パスの出し方、パスのもらい方、などである。
このように整理してみると、子供たちの特徴もよく分かるし、不足していること=重点的に練習しなければならない課題なども一目で分かる。持つ課題の異なる=練習のメニューが違うグループがいくつかできることになる。
チームごとの特徴も同じようにして(子供の名前の代りにチーム名を表側に採れば良い)マトリックスを作ることで明確にとらえることができる。

私は、常々「マトリックス思考」ということを考えている。マトリックスというものを思考方法=論理の組立て方、思考形態、思考の手段として位置づけて考えている。

(学)産能大学にいたころ、ある人が小売業向けにチェック・リストを作ったので見て欲しい、と言ってきたことがある。

一目見て、ブレーン・ストーミング(量は質を生む、という考えに基づいて片っ端からアイデアを出していく手法)を用いて、ランダムに思いついた項目を並べていったものだと分かった。

規則性・法則性がなく、項目として取り上げた要素の並び方・関連がバラバラである。また、類似のものが多いかと思えば、漏れも多い。
ブレーン・ストーミング自体が悪いと言うのではなく、その後でリファインしていないことが問題なのである。残念ながら「チェック・リスト」と言うには程遠く、思いついた項目の羅列のようである。
それでは、なぜこのようなことが起こるのか、という原因を考えてみると少なくとも「思考方法」がマトリックス的(多次元的)ではないのである。「一次元的」と言っても良いであろう。点や線の世界と同じである。

<注>
一次元とは、点や線の世界である。点が移動する(移動した跡=軌跡)ことによって線ができ、線が移動することで面(二次元)ができる。さらに面が移動することで立体(三次元)ができる、というように説明される。

相互に関係がなく、バラバラに散らばっている点を思い浮かべてみるとよく分かる。
それらの点を一つずつ拾っていっても全てを拾うことは不可能である。また、拾い集めた点をつないでいっても元々バラバラな点からでは直線を形作ることは難しい。
同様に不規則に散らばった線をいくら拾ってみても交差したり、ねじれの関係にあったりしてなかなか面を構成するまで行き着けないことは容易に想像できる。
ランダムに思いついたものをそのまま並べ替えてみても結局、バラバラで規則性・法則性がないチェック項目がいたずらに並ぶことになる。

もしも、チェックリストを作る際にブレーン・ストーミングの様な手法を用いるのであれば
①表頭、表側にどの様な項目を組合わせたら良いのかというアイデアを出す場合
②表頭、表側に採った項目を具体的項目に落とし込むような場合
であろう。
ただし、いずれの場合もただアイデアを出せば良いのではなく、マトリックスの表頭、表側に置いた項目を拠り所として出したアイデアを必ずリファインし、一定の法則に従ってまとめ直す必要がある。
一方、マトリックス的に物事を見ていくとどうなるであろうか。
マトリックスというとすぐに二次元(平面)をイメージするが、三次元以上の多次元でもマトリックスは成立する。
我々が具体的に目に見える形として作ることができるのは、三次元(立体)マトリックスまでであるが、コンピュータを使うことでN次元(複数の次元=多次元)までのマトリックスを作ることが可能になる。

また、集合論の考え方( A∩B ―――例えばスラックスでいえば、Aという項目;色がチャコールグレーの無地、かつBという項目;ウエストサイズ88㎝のスラックス、というとらえ方である。これを広げていけば、色・柄/サイズのマトリックス、ということになる)を用いるとマトリックスのマスの部分をとらえることができる。

 

ここでは、分かりやすく二次元(平面)マトリックスを例にしてマトリックス思考ということについて考えてみる。
いま、目的として「店舗、あるいは、売場に関する考え方を整理したい」とする。
そこで店舗の中にある、あるいは行われていることに関する要素を整理すると次のようになる。

①売場の構成要素(経営要素)
a.人( Man );従業員(社員、パート、アルバイトなど)
b.もの( Materials );商品(プロパー商品、定番商品、スポット商品、特売商品、チラシ掲載商品など)
c.設備( Machine );売場(定番ゴンドラ、ゴンドラ・エンド、平台、山積みスペース、レジ前スペースなど)駐車場、....など

②業務の流れ・手順
a.業務サイクル(予算-施策策定-実施計画立案-実施準備/実施 /測定/中間チェック/修正-評価-修正)
b.業務の流れ(発注-荷受け-検品-補充-販売、…etc.)
c.時間の流れ(曜日時間帯;月曜開店前-午前中-午後-夕方-閉店前-閉店後)...など

③5W1H ; What(何を),Why(何故),When(何時),Where(何処で),Who(誰が), How to(どのように)

④マネジメント・サイクル; Plan(計画),Do(実施),See(評価)
あるいは、Plan(仮説),Do(実験),See(検証)..(学)産能大学小玉勝也氏による
あるいは、管理のサイクル; Plan(計画),Do(実施),Check(検討),Action(処置)...など

ここで取り上げた4つの要素間の関係を整理したマスターマトリックスが図表-1である。
このように、何らかの規則性、法則性のある項目を表頭、表側に採用することでそれらの要素間にある関係の全てを観ることができる(一覧性; visibility )。当然、モレや重複を防ぐことができるし、チェック・リストなどを作成する場合には項目の並びかたが規則的になり、見やすく・使いやすいものになる。
図表-1で検討し、有効と考えられる項目をさらに具体的に表わしたものが図表-2(1)から(6)である。

   

ここに採り挙げたマトリックスは、各要素を一般的な表現にしてあるが、これらのマトリックスからさまざまなプログラム(業務手順やコンサルティングの手順)やチェック・リストなどを作成することができる。
このようにマトリックスを作成することで、漠然とした状況を規則的に整理することができる。
そして何よりもマトリックスを作成することの利点は、単なる偶然や思い付きではなく、全ての可能性をマトリックス上に整理して全体を一覧し( visibility )、ものごとの本質を見分ける視点・観点を身につけることができることである。
「マトリックス思考」は、次から次へと起こる煩雑な現象をランダムにとらえることはしない。
ある状況に関するさまざまな要素をそれぞれ多次元的(階層的)に関連付けて構造的なメカニズムという視点から観ていく。(図表-3)

したがって、常にものごとを要素としてとらえるし、現象や状況を要素間の関連による構造的なメカニズムとしてとらえる。
マトリックス思考は、ものごとに関する着眼点、その後の思考プロセスなどが論理的、かつ普遍性があるのでさまざまな状況に対して常に要素に整理して観るような目を養う。

何でもマトリックス

まだ、子供だった頃「 クイントリックス 」というコマーシャルが流行ったことがある。
ここでは「 何でもマトリックス 」である。
マトリックス思考は、何でも要素間の関係として観ていく。そして、考えられる要素間の関係の中から重要であるものを絞り込むからさまざまなものごとに関して状況の本質がよく見える。
基本的に要素段階でのモレさえなければ、マトリックス上に全ての可能性を網羅することができる。

例えば、熱帯魚を飼っていると、魚種によって、飼育する温度帯やPH(酸性/アルカリ性を示す指標 )が違っている。魚種と飼育温度、PHのマトリックスを作ってみると、同じ水槽で飼育できる魚が分かる。

スーパーで食料品を買う時にどんな食材をどのくらい買ったら良いのかを整理するのであれば、おかずごとに用いる材料の種類と量をマトリックスにしておくとすぐに分かる。

どのスーツには、どんなYシャツ、ネクタイが良いのか、という組合せを考えるのであれば、表側にスーツ、表頭にYシャツ、ネクタイというマトリックスを作れば良い。さらにYシャツ×ネクタイのマトリックスを別に作れば、組合せ方の検討だけではなく、持っているものの偏りや不足を見るチェックリストにもなる。

仕事の場面で使うマトリックスの要素として、特に有効なものを挙げると次のようになる。

①原因=結果( 要因=特性 )
原因と結果、あるいは要因と特性の関係を整理することで、頻繁に起こる結果に対して、重要な影響を与えている原因を特定することができるし、単に一つの結果だけではなく、ある原因がさまざまな結果に対してどのように影響しているのかも知ることができる。

②目的=手段
特に業務目的と手段としての業務の関係など、目的=手段の関係を整理していくことで、目的的 に手段を選択することが可能になる。また、一つの目的を達成するために必要となる手段の数=ステップ数を見ることで、手段の効率を評価することも可能である。

③発信と受信 ; From to chart フロム・ツー・チャート
From to chart は、もともと工場内での物の流れを検討するために用いられていたものである。さらに業務分析に応用し、書類や情報の発信( フロム )/受信( ツー )の関係を整理すると、業務の偏りを検討するのに有効である。

④原材料・部品=製品・完成品
メーカーでは、ごく当たり前に行われていることであるが、さまざまな製品を作る上で必要となる原材料・部品と製品・完成品の関係を整理してみる。必要となる原材料・部品の関係を見ることで、共通部品の採用を検討したり、発注量、発注方法の検討をすることができる。..........etc.

これ以外にも多くの組合せが考えられるが、いずれにせよ、関連する要素をマトリックスに表わすことでさまざまなことを検討することができる。

重要なことは、①マトリックスの表頭/表側に必要な要素を全て網羅すること、②それら要素の関連性に対して一覧性( visibility )を与えることである。

このように、発想の転換をすると「何でもマトリックス」ということになる。
商品構成もマトリックス、業務マニュアルもマトリックス、チェックリストもマトリックス、...良いマトリックスを作るためにも、またマトリックスが有効である。

 

(1997年10月)