10. バイヤーの評価、給料はどう決まるのか?

1. はじめに
2. 「能力」と「成果」について
3. 基本能力と実績
4.「成果」の評価について
5. バイヤーの評価者
6. 評価と給与、昇格
7. バイヤーの地位・お金に関する、疑問・巷説に答える
8. まとめ

1. はじめに

今回は本セミナーの第10回目、最終回です。

第1回から第9回まで、ベンダー・メーカーの営業マンの皆さんに、小売業のバイヤーの実像を知ってもらうために、様々な内容を解説してきました。
今回は、その全てのまとめとして、バイヤーの仕事はどの様に「評価」されているのか、そして、ビジネスマンにとって最も重要な「給与」はどの様に決まっているのか、について解説します。 ビジネスマンが働く目的は、会社からの「評価」が全てである、とは言いません。
しかし、どんなにキレイ事を並べてみても、上司から、会社から、自分の仕事が評価されないのなら、ビジネスマンの仕事は虚しいものです。
自分は、会社からの評価など気にしない。そんな事よりも、仕事そのものに対する思い入れ、生きがい、ヤリがいが感じられれば十分だ。などと言ってみても、給与(報酬)がともなわない限り、本心から納得する事はできないはずです。

ところで、ベンダー・メーカーの営業マンからは、仕事ができるバイヤー、誠実なバイヤーとして評価されているのに、相手の社内ではあまり評価されていない。
こんな事例を、皆さんの囲りでもよく聞く事でしょう。
また、バイヤーとの商談のあい間に、お互いの給与の話しがでる事があるでしょう。しかし、そのバイヤーの給与がどの位なのか、バイヤーの給与がどの様に決まるのか、その仕組はまったく知らないと思います。
自分が担当しているバイヤーがどの様に評価されているか。さらに、相手先企業の評価制度、給与制度までを、一通り理解しておく、これも営業マンの重要な業務です。
なぜか。バイヤーと本音の会話ができる様になるからです。
そんな訳で、今回のセミナーのテーマは「バイヤーの評価、給与はどの様に決まるのか?」です。 バイヤーに対し、”相身互い”の思いを込めて、最後のセミナーを学んでください。

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2. 「能力」と「成果」について

1. 学校での「能力」

学校の成績は、「能力」を評価します。
漢字を読み書きする能力、数学の計算を解く能力、英語のスペルが正しく書ける能力、などです。 能力の判定は「テスト」で行います。100問中、何問正解したか、と言う具合に絶対評価されます。
正解が多い人程、能力が高い、と判断されます。
極めてわかりやすい話しです。

2. 「学力」と「能力」

日本の社会は、かつては「学歴社会」でした。その後、”受験戦争”の弊害などが指摘され、学歴偏重に対する批判が高まり始めました。たとえ一流大学を出ていても、卒業したという事実=学歴、だけでは社会に出てから役に立たない。真の学力=能力、がなければ学歴の意味が無い、という考えに変わり始めました。
「能力」について考える時、先ず第一に、この学力=能力、という点を整理する必要があります。 なぜかと言うと、日本のビジネス社会では、未だに「学力=能力」と、頑なに信じ込んでいる人が多いからです。
月並みな表現で言うなら、学校の勉強が出来れば、仕事も出来るのか?と言う事です。 当然ながら、答えは「イイエ」です。

3.「仕事が出来る」とは?

先程、仕事が出来る、と簡単に言いましたが、この表現は、実は簡単には使えないのです。
どう言う事か説明します。
“仕事が出来る”とは、一般に、仕事が”良く”出来る事を指します。
ここまでは、言葉を正しく使いなさい、と言う事ですから、すぐにわかってもらえるでしょう。
次の問題は、「仕事が良く出来る」、と言う表現の内容です。図①を見て下さい。

 

図① 「仕事が”良く”出来る」の図

(A)の場合
やろうと思えば、ヤル気になって仕事をすれば、「仕事が良く出来る」、と評価されるだけの基本能力を持った人間である、と言う意味です。

(B)の場合
基本能力はあまり無いが、それをカバーする、体力、気力が充実しており、過去の実績から見て、「仕事が良く出来る」、と評価されるだけの仕事をしてくれるだろう、と言う意味です。

(C)の場合
(A)、(B)とは評価の観点が異なります。(A)、(B)が”予測”、”期待”であるのに対し、(C)は”結果”です。
もっとも、(B)の場合、「過去の実績を分析して、今度も必ずや実績を出してくれるだろう」と言う期待ですから、(A)の概念的な”予測”とはまったく異なります。

この様に、「仕事が出来る」と言う評価は、非常に曖昧な表現である事を承知して下さい。

4.「予測」と「結果」

1) 予測
ここまでの説明で、”仕事が良く出来る”と言う評価には、”予測”的評価と、”実績”に対する評価の2つの側面がある事が理解できたと思います。
日本の伝統的な「評価基準」である学歴、出身学校、などは、予測的評価の典型です。 図②を見て下さい。

 

図② 「大学卒」の者に対し、”予測的”評価をしてしまう「流れ」

学歴や出身大学だけで評価する事は、第1段階を見ただけで、いきなり第4段階まで評価を進めてしまう事を意味します。
進める、と言うより、”思い込んでしまう”、”錯覚する”と言うべきです。
この例では、大学卒は仕事がよく出来る(実績を出せる)と、言う予測的評価をしている事になります。

2) 結果
予測評価に対し、実績評価は単純明快です。
与えられた「課題」に対し、どれだけの結果実績を出したか、という判断です。
確かにわかりやすい評価です。
しかし、この評価を行うには、前提が必要です。
「課題」が明確になっている事です。
「明確な課題」とは、表現が絶対的で、曖昧さが残っていない事です。
「なるべく」とか、「向上を目指す」とか、「現状からの脱却」とかの、相対的な表現でない事が重要です。
バイヤーの仕事で言えば、”数値課題”が、明確な課題の代表です。
したがって、実績評価を重視する企業では、「課題」と言えば、当然、数値実績が第一となるのです。
一見、合理的な評価法と思われる、実績評価にも問題があります。
実績評価では、結果としての数値だけが評価の対象になっている事が多いのです。
それも、会社全体の業績との因果関係が、明確になる数値項目だけに絞られてしまう傾向があります。
この事から起こる弊害は、これから先に向ってのヤル気、を引き出しにくい、と言う事です。
いつも、いつも結果、結果……。数値、数値……。と追い立てられていては、現場の人間は疲れてしまい、かえってヤル気が萎えてしまいます。

5.「成果主義」の導入

「実績評価」は小売業の現場に向いた、単純明快な評価方法である。しかし、ともすれば、評価しやすい数値、目先の数値に片寄った評価になってしまいます。実績評価には、そう言う危険性がある事は理解できたと思います。
人事担当もその事は承知していて、従来の「実績評価」に変わる新しい評価制度として、「成果主義」が研究され、各企業で導入されています。
この「成果主義」人事評価制度は、従業員一人一人の評価を”成果”によって行うものです。
「成果主義」で言う「成果」とは、企業の業績向上につながる成果、を指します。
「成果主義」では従来の様な単純な実績数値や、相対的な評価項目で評価するのではありません。 より具体的な評価の「しくみ」が考案され、”因果関係”を重視した基準が作られます。
もっと詳しく、この「成果主義」を説明したいのですが、このセミナーは人事部員を対象としている訳ではないので、これ以上ページを割く事はできません。
「成果主義」の評価制度は現在、次の3つの方法が代表的である事だけ、解説しておきます。

1. 目標管理型
2. 管理会計型
3. コンピテンシー型

それぞれの内容については、第3章以降で、バイヤーに対する評価の実際を説明する時に触れる事にします

*尚、「成果主義」についてさらに勉強したい方のために、入門書を紹介しておきます。
『成果主義と人事評価』 内田研二 著 講談社現代新書 2001年10月20日 660円

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3. 基本能力と実績

1. バイヤーの基本能力とは

バイヤーに求められる「基本能力」は実に多岐にわたります。
バイヤーは「商品部」だから、商品力(=商品知識、商品開発力、商品調達力、品揃え能力、など)があれば良いのではないか、と言うかもしれません。
従来通りの評価制度を採用している様な企業では、この程度の能力でもバイヤーとして通用するかもしれません。
しかし、第2章で学んだ「成果主義」による評価制度を導入している様な企業では、とてもとても、こんな程度の能力では、バイヤーは務まりません。
バイヤーの仕事はそんなに単純なものではありません。
バイヤーが企業業績につながる成果課題を達成するためには、実に様々な能力が必要です。 図③を見て下さい。
バイヤーと言う仕事を遂行するには、これだけの能力が必要なのです。

 

 

図3 バイヤーに求められる基本能力一覧1、2

2.「基本能力一覧」の実態

バイヤーに求められる「基本能力」の概要については、図③で理解できたと思います。 基本能力一覧のうち、(A)、(B)は、人事部が内容をまとめている場合が多い様です。
人事部は、部員を「人事担当者セミナー」に出させたり、人事に関する本を読んだりして、(A)、(B)の内容をまとめます。
同時に、これら各項目の「評価基準書」を作成します。
しかし、人事部が作る「一覧」及び「基準書」は上手にできた”作文”です。
所詮、”作文”ですから、確たる根拠など最初から期待するほうが無理です。
(C)については、「商品部」側で作成します。
現場を熟知している商品部長、商品課長が担当するので、それなりの内容になっているはずです。
ところが、これが、まるでダメな企業が多いのです。
セミナー第2回の『バイヤーの仕事の全体を知る』で、「バイヤーの業務一覧」を解説しました。
この時、バイヤーの業務が明確になっていない企業が多い、と指摘しました。
バイヤーに求められる「基本知識、技術」も同じ様に明確になっていないのです。
内容が不十分だ、表現が曖昧だ、と言う企業はまだマトモな方です。
「基本知識、技術一覧」を作成していない企業すらあるのです。

3.「基本能力」の評価

次に、この「基本能力」に対する評価はどうなっているのか、その問題に移ります。
図③の「基本能力」の(A)の基本資質、(B)の基本行動、(C)基本知識、技術、いずれも相対評価です。
したがって、何らかの「基準」を設定し、その基準に対し、上か下か、を評価する事になります。 一般に1~5までの5段階評価で、「3」が標準とされています。
ところで、この”標準”は、誰がどの様に決めているのでしょうか?
(A)、(B)は、先に説明した通り、人事部がマニュアルを作成し、運用は商品部が行います。 (C)については、商品部が行います。
しかし、既に話した様に「基本能力一覧」の内容そのものがいいかげんな状態ですから、評価の基準を作るのは、極めて難しい作業になります。

4. 「評価基準マニュアル」

どこの企業の商品部にも、一応「バイヤー評価基準マニュアル」はあります。
しかし、このマニュアルがほとんど役に立たないのです。
その理由は、次の2点です。

1. ある時の商品部長、又は商品課長が個人的な見解をまとめた、と言う性格のマニュアルが多い。
そのため、評価基準としては、一般性に欠ける。
2. バイヤーの業務を”最大公約数化”して基準を作っている。
そのため、ある部門のバイヤー評価には適しているが、別の部門のバイヤー評価には不向きである、という問題が発生している。

「バイヤー評価基準マニュアル」に不具合があると分かっていても、その時々の商品部長、商品課長は、「私が新しいマニュアルを作成する」と言い出しません。
そんなめんどうな事はしたくない、というのが本音です。第一、そんな能力は無いでしょう。
その結果、誰もが不具合を承知の上で、「バイヤー評価基準マニュアル」は引き継がれているのです。
このマニュアルに則って、バイヤーの基本能力は評価されてしまうのです。
こんなマニュアルで、この程度の部長や課長が評価する訳ですから、評価の内容は極めていいかげんです。
ほとんど”エイ!ヤー!”の世界です。元々、根拠が無い「評価基準」で評価する訳ですから、評価する方には”後ろめたさ”があります。
その結果、評価は、平均化します。
それも、「やや良い」のランクで。
実際の数値で言えば、「3~4」に集中します。平均点では、3.7位に落ち着くでしょう。
「1」「2」はほとんどつけません。反対に「5」も余程の事が無いとつけません。
これが、「基本能力」に対する評価の実態です。

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4.「成果」の評価について

1. 「基本能力」と「成果」の評価配分

先程、評価制度には予測的な評価と結果実績評価がある、という事を解説しました。
現在、日本のほとんどの企業では、この2つを併用しています。
欧米の企業に多く見られる様な「年俸制」、つまり1年間の成果のみを評価の対象とする、”結果が全て”と言う割り切った評価制度を採用している企業は、ほんの一部です。
「年功制」を評価制度の内に遺こしながらも、「成果主義」を採用して、企業業績の向上に直結した評価制度に切り替えていきたい、と言うのが実情です。
どっちつかず、イイとこ取り、の考え方です。
この性向は日本企業の悪しき特質です。早い話がポリシーが無いのです。
そんな状態ですから、実際の評価では先ず第一に「基本能力」と「成果」の”評価割合”を決めなければなりません。
これは、合計100点のうち、「基本能力」に30点、「成果」に70点を配点する、という具合に決めます。
この”配分比”には、その企業の人事方針、トップの考え方が強く表われます。

2. 本部評価と店舗評価

バイヤーの「成果」に対する評価では、他にも難しい問題があります。 バイヤー個人の業務と、バイヤーの囲りに居る人達との関連業務、その関係をどう判断するか、という事です。
後に解説する「成果」評価項目、の一つである「売上」について、この個人と集団の関係を説明します(図④参照)。

 

図④ 本部バイヤーと店舗売場担当者の関係

バイヤーが「売上」という成果を上げようとしても、自分自身だけでは何もできません。
バイヤーは本部員です。本部にいて、商品企画、売場企画、販促企画、数値企画など、「企画」を立案する仕事を担います。
しかし、企画がいくら優れていても、それだけでは成果が上がるはずもありません。
その「企画」を”実行”して、初めて成果が上がります。その”実行”を担当するのが店舗です。
「成果」に対する評価では、本部(バイヤー)と店舗(売場担当)の貢献度、関与度が問題になります。
A部門のバイヤーの売上実績は、各店のA部門の売上を”合計”した数値でしかない訳です。
「企画」が良くても、「実行」が悪ければ売上は上がらないし、「企画」が悪くても、「実行」が良ければ、売上は上がります。
売上実績に対する、バイヤーと売場担当者の両者の貢献度、関与度をどう考えるか、非常に難しい判断です。
この問題は、仮にA部門に関わるバイヤーと売場担当者をまとめて、1つの「集団」として捉え、A部門全体を評価する、「集団評価制」を採用したとしても解決しません。
どの様な方式を考案しても、本部と店舗の配分がスッキリし、集団構成員の全員が納得する判定をする事は不可能と思われます。

3. 「成果」における”経過”と”結果”

“流行り”とも言える程に、人気の高い「成果主義」ですが、とは言っても、実際には様々な問題を抱えています。
「成果主義」という考えがそのまま評価制度改革の”決定打”には成り得ない事が理解できた所で、次に移ります。
バイヤー評価において、そもそも「成果」とは何か、と言う事を考えます。
バイヤー業務における「成果」の内容も又、非常に曖昧です。
どの様に曖昧なのか、その点を説明します。
第1の問題。それは、経過評価と結果評価の区分です。
この点を品揃えと売上の関係で説明します。図⑤を見て下さい。

 

図⑤ 「経過」と「結果」

「売上」を向上させるには様々な対策があります。
品揃えもその1つです。しかし、品揃えを強化したからと言って、すぐに売上が向上する訳ではありません。
しかし、品揃えを強化すれば、効果が表われるまでに時間がかかっても、確実に売上が向上します。そして、この方法で向上した売上は、後戻りする事が少ないのです。
一方、チラシ販促を強化すると、売上はすぐに上がります。
しかし、この手法による効果は長続きしません。すぐに効き目が消滅し、元に戻ってしまいます。 この様に、「売上」と言う結果だけで「成果」を判断する事は大変危険なのです。
「成果」を導き出した”経過”を分析し、経過に対する評価が重要となります。
評価において「結果」を重視しすぎると、バイヤーは速効性のある対策だけで、売上を稼ごうとします。
チラシに目玉商品を多数掲載します。
重点商品を次々に送り込みます。
一方、「経過」を重視しすぎるとどうなるか。売上向上の”王道”である、品揃え強化、売場強化、人材育成に重点が置かれます。
この事は良いのですが、結果としての売上数値が上がってこなくても、やる事はやっている。手を打っている。いずれ、実績も上向くでしょう、と居直ってしまう。
これでは、企業経営は成り立ちません。
しかし、だからと言って、「結果」だけを重視していては、「経過」が軽視され、成果を生み出すための手法(いわゆるノウハウ)の開発、伝承がおろそかになります。
結果偏重は”その日暮し”となり、継続的な発展が難しくなるのです。

4.「損益評価」について

1) 損益評価の必要性
バイヤーの「成果」評価でもう1つ問題になる事があります。
営業面での成果ばかりが注目されると、次の様な弊害が生じるのです。
売上を稼ぐための対策が優先され、効率、コストが軽視される事です。

・売価を下げてでも売上アップを狙え!→粗利低下
・新商品を次々と投入しろ!→在庫の膨らみ
・販促物をたくさん付けろ!→コスト増
・売場を次々と変えろ!→コスト増、ロス増

この様な問題が発生するのを防ぐために導入されたのが、「損益評価」です。
この「損益評価」は、従来の実績優先評価の様に、営業収益だけを評価対象にするのではありません。
その営業収益を稼ぎ出すために使った費用を算出し、”収・支”の総合判断で評価しよう、というものです。
企業の「損益計算書」と同じ手法です。
小売企業では、「部門損益評価」と呼んでいます。
部門損益を算出すれば、あるバイヤーが担当する部門が、企業の収益にどれだけ貢献したか、一目瞭然です。

2) 損益評価の問題点
しかし、この「部門損益評価」を勘違いしている人がいます。
この制度を導入すれば、バイヤーの評価に関し、従来からあった様々な問題は全て解決する、と思い込んでいる人々が多いのです。
小売企業のトップや幹部ですら、そう考えてしまうのです。
しかし、この評価方法には、3つの問題点があります。

1. 部門別にコストを計算する事が非常に難しい
2. 収益を重視するあまり、縮小均衡に陥りやすい
3. 「結果」としての損益にばかり目が向き、品揃え、売場の改善など「経過」の評価がおろそかになる

2、3の問題点については、運用方法を工夫する事で解決する事が可能です。 しかし、コスト計算が難しい、と言う第1の問題は簡単には解決しません。 もっとも、部門別のコスト算定の難易度は、業態によって異なります。 易しいのは、SM、CVSなどです。難しいのは、ノンフーズ系の業態です。

3) コスト計算が難しい理由

コスト計算の難易度はどこで差がつくのか、説明します。

1. 店舗オペレーションの手法
・SMでは、作業割当(レーバースケジュール)が部門単位で行われているので、部門人件費の計算が容易
・SMでは、レジ、販売、加工、倉庫など、業務毎に担当がハッキリしていて、パート、アルバイトも、時間単位で業務を指定される。したがって、共通人件費と、部門毎人件費の区分がしやすい

2. 売場の作り方
・SMでは、売場のほとんどが定番である。したがって、部門毎の売場面積が、年間を通じて変化しない。
・SMでは、部門毎の売場レイアウトが固定している。仮にプロモを設けるにしても、自分の部門内を改装してスペースを作るので、部門全体の売場面積は、ほとんど変化しない

これら、SM、CVSの特徴に比べてノンフーズ業態は、各項目ごとに反対の傾向があります。
例えば、次の通りです。
HCでは、パート、アルバイトは、レジ、販売、品出し、倉庫業務など全てを行います。
又、HCでは、売場の約30%がプロモーション売場です。
このスペースで、プロモMDが展開されます。しかし、どの部門がどれだけのスペースを使うかは、52週毎に異なり、部門毎の使用面積を算定するには大変な手間がかかります。
この様に、店舗コストを部門毎に算定するには、膨大な手間がかかるのです。

4) 部門損益評価の構造的問題
部門損益を行うには、コスト算出が難しい。とりわけノンフーズ業態では、と言う事を説明しました。
しかし、部門損益評価は、コスト算定よりもっと大きな問題を抱えているのです。
それは、「部門」と「全体」の関わり、の問題です。
ここで言う「全体」とは、「商品部」に対する”会社全体”であるし、「ある部門」に対する”商品部全体”でもあるし、「店舗のある部門」に対する”店舗全体”でもあります。
部所、部門に限定された業務に対し、「全体」に関する業務も当然発生するのです。
部門の業務を重ねて集めた集合体がそのまま「全体」となる訳ではありません。
図⑥を見て下さい。

 

図⑥ 「部門」と「全体」の関係の概念図

店舗の例で説明します。図の様に、1つの店舗を維持、運営するには、各部門の業務が遂行されただけでは成り立たず、それ以外の業務が必要なのです。図⑥-2の様にはいかないのです。
図⑥-1の様に、店舗の業務は各部門に直接関わる作業と、部門に関係なく、部門のスキ間を埋める様な役割を持つ作業があるのです。
この作業、業務を「非部門業務」と呼ぶ事にしましょう。
この「非部門業務」には、様々な作業がありますが、代表的なものは、売場での接客です。お客様を案内したり、お客様の求めに応じて、対面で商品説明をしたりする事です。

例えば、家電量販店の場合。
白モノ家電の担当者が売場に居た時、お客様から声をかけられます。
蛍光灯のワット数がわからない、と尋ねてきました。蛍光管の売場は、セルフ対応の売場、となっているので販売担当を置いていません。パートが交替で品出しをしているだけです。
だから、担当者を呼んで、その者に接客を引き継ぐ事ができません。そうかと言ってこのまま客を放ってはおけません。しかし、この客に丁寧な対応をしていては、時間がかかりそうです。
自分の売場に戻れない。早く売場に戻らないと、自分の売場がカラになっている。どうしたらよいのか悩んでしまう。
原因が良くわからないが、客数が減っている、と言う場合、こんな事が原因である事が多いのです。
この様な事態が発生するのです。
本部でも同じです。本セミナーの第3回『バイヤーの一週間密着レポート』でも解説した通りです。
中小の小売企業では、バイヤーは、自分の部門以外の仕事もたくさん担当させられるのです。 みんなが自分の担当する「部門」の仕事だけに没頭し、「全体」の業務を見て見ぬ振りをしたらどうなるのか。
短期的には、問題が表面化する事はないでしょうが、長期的には、客の支持を失なう事になるのです。

部門損益評価の今後
様々な問題を抱えていますが、部門損益評価を導入するべきだと考えます。
しかし、実際の運用では、業態により、企業規模により、大巾な修正や、実情に合わせた工夫が必要でしょう。
管理会計的な発想で、部門損益評価を”杓子定規”に運用すると、プラス面よりマイナス面が強く表われ、大変な事態になります。
ところで、バイヤー評価に部門損益評価を導入すると、評価制度の改善にとどまらず、様々な効果が表われる事が期待されます。
なぜか。従来のバイヤーは、いわゆる”ドンブリ勘定”で、売る事しか頭になかった。それが、”経営的発想”で仕事をする様になるからです。

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5. バイヤーの評価者

1. 上司による評価

一般の企業では、部下の評価は所属長である上司が担当します。その結果をさらに、上席の役職者がチェックする、というスタイルです。
バイヤーの場合、上司は課長、その上に商品部長、商品本部長が居ます。
評価もこの順番で上っていき、最終決裁は営業本部長が下す事になります。
ただし、決裁までの手順は企業によってかなり異なります。

2. 上司によって評価が異なる場合

バイヤー用の「評価シート」には、各上司が評価を記入する欄が設けてあります。
つまり、上司の人数分の評価欄が設けてあるのです。それぞれの上司は、自分の欄に自分が判断した評価点数を記入します。
当然、上司各々の評価は異なります。この時どうするのか。
一応、商品本部長又は営業本部長が主催して、判定会議の様な話し合いの場を設けます。
しかし、その場で各自が自分の判断をぶつけ合って、真剣に討議する、という訳ではありません。
形だけの話し合い、で終る事が多いのです。
そして、最終的には、全バイヤーの評価差がほとんど表われない、”当り障り”の無い評価に落ち着くのです。
課長も、商品部長も、商品本部長も、営業本部長も、敢えて大勢の意見に逆らいたくないのです。 又、既に前々から定まっている、各々のバイヤーの評価はなかなか変わりません。変わらないのではなく、変えようとしないのです。
どの上司も、”前例に倣う”事を評価判断の基本にしているからです。 変化を嫌う、のが日本企業の中堅幹部達なのです。

3. 評価者の能力

「評価」は評価する側と、評価される側で構成されます。
今まで評価される側の事情のみ解説して来ました。
ここで、評価する側の問題について触れておきます。
「評価」の問題は、ともすると評価制度の面のみが強調され、研究される傾向があります。
しかし、いくら評価制度が改善されたとしても、その制度を運用するのは人です。
全ての業務は、人が運用する事はどこの企業でも同じです。
ところが、多くの企業では、人事部は「評価制度」の研究、開発には熱心でも、評価者の評価能力向上のための研究、努力をほとんどしていません。
「評価マニュアル」、「評価シート」は作るのですが、肝心の「評価基準」、「判断能力」の向上のための教育を用意していないのです。
課長、部長、本部長と言えども、そのポジションに就いた時点で、ポジションの職責に見合った評価能力を身に付けるための教育を受けていないのです。

新人の課長がいたとします。
「定昇」の評価、ボーナスの評価、いずれにせよ最初に評価という業務を行う時どうするか。
人事部に相談すると、「評価マニュアル」に則ってやっていただければ結構です。詳しい事は、囲りの課長に尋ねてください。と冷たく突き放なされます。
囲りの、先輩課長に評価の仕方を尋ねると、「うちの評価制度はいいかげんだから、点数記入は適当にしておけばいいんだよ。あまり低い点を付けたり、5点満点を付けたりすると、あとで部長や人事から理由を尋ねられるので、止めといた方が無難だよ」と、こんな具合です。
仮に真剣に評価しようとした課長がいたとして、どうするでしょうか。
既に解説した通り、バイヤーの評価は非常に難しい問題が山積しています。
真剣に評価しようとすれば必ず次の問題に突き当たり、悩むのです。

1. 自分自身の評価者としての能力不足
2. 評価者相互の評価基準、評価内容の不統一と調整不足
3. バイヤーに対し適切な指導、監督をしていない自分が、バイヤーを評価する事の矛盾
4. 各バイヤー間の仕事量、目標設定、市場環境には大きな違いがあり、これを考慮しなければ公平な評価はできないが、現実にはそれを考慮する能力が無い
5. 評価制度の理念と、現実の評価制度、給与制度との間には大きな齟齬があり、仮にどんなに高い評価を与えても、昇給、昇格にはそのまま反映しない矛盾

このような矛盾に遭遇すると、真剣に評価しようという気力は一気に萎えてしまうのです。
一般に、評価者には次の4つの能力が求められるはずです。

1. 現状の評価制度に精通している事
2. 評価基準に則って正しい判断が出来ること
3. 正しい判断をするための情報を正確かつ大量に収集、保管、整理している事
4. 現状の評価制度の問題を分析し、より適切な制度に改善していくための企画力を持っている事

しかし、実際には、評価者としての能力を有している評価者はほとんどいません。

4. 新しい評価制度

ここで、話題を変えて新しい評価方法について2、3紹介しておきます。

1) 相方向評価
従来の評価が上司から部下への一方通行であったのに対し、この方法は自分自身の評価と上司の評価を互いに公開し、その根拠、相違点を確認し、相方が納得するまで議論の上、評価を決定するものです。
小売企業でも、大手企業では取り入れている企業が多くなっています。
この方法の良い点は次の2点です。

1. 部下にとって
・自分の評価がオープンになる事で、人事への信頼感が出る
・自分の業務上の良い点、悪い点を上司との間で話し合える
2. 上司にとって
・評価をオープンにする事で、評価に対する真剣さが増す
・部下とじっくり話し合える事で部下との信頼感が増す

しかし、小売企業の多くでは、上司と部下が”もたれ合い”状態であり、相方向評価を導入するには、企業風土の改革が必要と思われます。

2) 360度評価
「360度」とはバイヤーの業務に直接、間接に関係する全ての人、と言う意味です。
直属の上司は当然として、総務部長、物流部長といった間接部門の管理職も評価に加わります。 また、店長、売場担当者、時にはパートまで含めた店舗スタッフも評価に加わります。
さらに、取引先であるベンダー、メーカーの営業マンにまで評価に加わってもらうのです。
このような「360度評価」を導入しているのは、まだほんの少数の大手企業のみです。
しかし、この「360度評価」は被評価者の誰もが納得せざるを得ない、究極の評価制度と言えます。
評価者の数が多いから良い、と言うのではなく、様々な立場の人から評価される事に意味があると考えます。
その事により、評価者の評価能力に疑問があり、なおかつ、所属部所の上司にしか評価されない、と言う現行の評価制度の不備をかなりカバーできると思います。

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6. 評価と給与、昇格

1. サラリーマンとは

サラリーマンとは、サラリー(給与)をもらう人、と言う意味です。
つまり、サラリーマンの評価は、給与で決まると言う事です。
たとえ、どんなに評価が良かったとしても、給与に反映しないのであれば何の意味もありません。 もちろん、評価は給与以外にも「昇格」に影響します。
「評価=給与」と一面的に決め付けるのはよくないかもしれません。
しかし、昇格すれば給与が上がるのが通例ですから、やはり評価は給与につながる、と言う事になります。
ですから、サラリーマンにとって、給与が全てを決す、と言っても過言ではないのです。

2. 評価と給与は連動しているか

全ての小売企業の事情はわかりません。
しかし、中小の小売企業の場合、評価は評価、給与は給与、となっている例が多い様です。 その理由は給与制度にあります。
小売企業に限らず日本の企業では、給与は会社から従業員に”くれてやる”的な思想が今も残っているのです。
給与は出せる範囲で出せばよい、という考え方なのです。
もちろん、経営ですから業績に見合った給与であるべきです。
しかし、多くの企業は経営上の都合で、経営者の勝手な判断で、給与の総額を決定してしまいます。
先に「給与総額」を決め、その総額を全従業員にどのように配分するか考えればよい、と言う考えが給与制度の根幹にあります。
したがって、バイヤーがどんなにその部門の業績を上げたとしても、会社全体の業績が悪ければ、給与はまったく上がらない、と言う事もあり得るのです。

3. 給与制度の実態

給与制度は、評価制度以上に企業間での違いが大きくなっています。
特に、企業規模による違いは想像以上です。
上場企業であれば規模の大小に関わらず一定のレベルに達しています。
ここで言う一定のレベルとは、厚生労働省等が提唱する、近代的労使関係に基づいた給与制度、という事です。
上場企業がなぜ一定レベルに達しているか、と言うと、「上場審査」の審査項目に、給与制度も入っているからです。
上場基準には、給与制度はこうでなければいけない、という事が明記されている訳ではありません。
しかし、あまりにも前近代的な、経営者側に有利な給与制度に対しては、改善勧告が出されます。

4. 年俸制について

小売企業でも年俸制を採用する例が多くなっています。
全ての従業員でなくても、幹部以上は年俸制という企業もあります。
ただし、年俸制にも色々なタイプがあります。
本来、年俸制は前年度の成果に対する評価を元にして、今年度の給与を決める制度です。したがって年俸制では、年功序列が廃され、成果以外の”情実的”な評価項目も排除されます。
しかし、実際には「固定給」のようなものと、「成果給」が組み合わされて年俸が構成されている場合が多い様です。
また、小売業の場合、業績の変化が激しい、という事情もあって、評価の対象期間を1年と見る事には無理が生じます。
仮に前年1年間の成果が良かったとしても、その次の1年間同じだけの成果があげられるという保証はありません。
反対に、前年1年間の評価が悪かった場合、次の1年間はその悪い成果に基づいた給与しか貰えないと言う事になります。
どちらの場合でも不具合、不公平が生じます。そこで、評価期間を短くし、業績と年俸が素早く対応するように工夫している企業もあります。
この場合、半期又は四半期毎の成果実績で評価変えが行なわれます。
事務手続きは大変ですが、従業員の意欲を引き出すには、良い方法と思われます。

5. 昇格について

“地位と名誉”と言う言葉があります。
しかし、最近では”名誉”を重んじる人は少ない様です。
では、なぜ「地位」だけは未だに重要視されるのでしょう。
「地位と権力」と称されるように、ある地位に付くとその地位に見合った”権力”を手に入れる事ができるからでしょう。
ビジネスの世界では、この問題はどうなっているでしょう。
近代化され、システム化された企業経営では、地位=権力、は”昔話”でしかありません。
課長になったら、飲み屋の領収書を経理に回せる、タクシーのチケットが交付される。
部長になったら、銀座のクラブに通える、社用車が支給される。
こんな話は、過去の出来事です。
本題に入って、バイヤーに関わる「地位」の問題を解説する事にします。

1) バイヤーになる事は昇格か
バイヤーは、多くの場合、店舗の役職者(店長、副店長、主任等)から選ばれます。
本部のバイヤーになるわけですから、オメデタイ話しではないか、と一般には思われています。
つまり、バイヤーになる事は、「昇格」に間違いない、と考えられているのです。
しかし、これがハッキリしないのです。囲りも、本人も。
バイヤーの辞令が出ると、多くの人は戸惑います。
小売の各企業では、人事部の資格規定で、店長は○○等級以上、バイヤーは○○等級以上、と言う具合に、各役職毎に必要な資格等級を設定しています。
だから、昇格かどうかなどと、悩む事はありえないと思われているのです。
しかし、店舗には「ランク付け」があり、同じ店長でも等級が異なります。
したがって、店長からバイヤーになった場合、必ずしも全てが「昇格」とは言えないのです。
現実に、バイヤーへの異動の内示を伝えたところ、本人が固辞して、異動を中止した、と言う例がよくあるのです。

2) バイヤーになると給料は上がるのか
給料が上がるか、下がるかは、先ほど説明した資格規定に関係します。
店長、副店長からバイヤーになった場合は、同額か、昇給かどちらかでしょう。
稀に、大型店の店長からバイヤーに転進した場合、「職務給」の上では降給になる事があります。
しかし、この場合は他の手当で調整し、総額では下がらない様に工夫するのが一般的です。
また、残業手当が支給されるポジションに居た者が、バイヤーに転進した時、給与が下がる事があります。
ほとんどの企業でバイヤーは、「営業専門職」として、職務手当が支給されます。しかし、代わりに残業代は支給されません。
一方、店舗の主任クラスまでは、残業代が支給される事が多いのです。
主任クラスでは、通例、月間40~50時間の残業をしています。
このため、主任クラスがバイヤーに異動すると、残業手当と、バイヤー手当を比較した場合、バイヤー手当の方が少なく、結果として、降給になってしまう事があるのです。
バイヤーになる事が、必ずしも昇格と断言できない。時には辞退する者も居る、という理由の一つには、給与面の問題があるのです。

3) バイヤーの次なるステップは?
一度バイヤーになった者の、次なるステップは次の4通りが考えられます。

1. 商品部内で他の部門に移動する
2. 商品部内で昇格する(チーフバイヤー、課長)
3. 本部の他部所に移動する
4. 店舗に転進する

1の事例.
キャリアパス的に考えれば、1つの部門だけでなく、2~3部門を経験しておく事が、商品部のエキスパートとして認められる条件でしょう。
したがって、他の部門に移動する、という事は、会社が(上司が)、自分を将来商品部の幹部に育てよう、と評価してくれている、と考える事ができます。
稀には、現在の部門が務まらないから、他の比較的簡単な部門に移動させる、と言う例もあります。

2の事例.
ほぼ間違いなく、将来の幹部候補と認められた事を意味します。

3の事例.
この場合、解釈は難しいです。
第1に考えられるのは、適性の問題です。バイヤーには”バイヤー向き”と言われるバイヤーに適したタイプがあります。
本人がそのタイプでなかった場合、早めに異動をかけるのが、人事のやりかたです。
第2は、キャリアパスです。極めて優秀な人材で、将来役員を期待される様な場合、若いうちに管理部門も経験させておいた方が良い、と言う理由で、他部所への異動を考える事があります。

4の事例.
この場合、答えは3つあります。
第1は、バイヤーとして使い者にならなくて、店舗に戻される場合です。明確には言われませんが、実質的に左遷です。
第2は、元から、”店舗分野”を歩ませる予定にしていた者を、勉強のために期間を切って、本部バイヤーをやらせていた場合です。
したがって、店舗に戻る、とは言っても元から予定のコースですから、本人も囲りも「本部で色々勉強できてよかったネ」という感じです。
第3は、キャリアパス的な異動です。若いバイヤーの場合によくあるケースです。
将来が期待されるバイヤーだが、いかんせん現場経験が浅すぎる。もう一度、店舗で勉強させた方が本人のためになる、と言った考えです。

バイヤーの異動は、年に数回はあるでしょう。
ベンダー・メーカーの営業マンにとって、自分が直接担当をする人の人事ですから重大です。 新しいバイヤーが、昇格なのか、降格なのか。
おめでとうございます、と声を掛けるべきか否か。
日頃から、相手先企業の人事をしっかり観察しておかないと、判断ができません。
人事異動の季節です。
皆さん自身で相手先企業の異動の”裏事情”を解き明かしてみてはいかがでしょう。
人事が読み切れる様になったら、営業マンとして、一人前です。

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7. バイヤーの地位・お金に関する、疑問・巷説に答える

1. バイヤー3年やったら「蔵」が建つ

ウソです。30年前の話しでしょう。しかし、その頃でも、「蔵」はオーバーです。当時なら「車」くらいは買えたでしょう。
最近は、どこの企業も、バイヤーの行動には厳しく目を光らせています。とても、とても「蔵」など建ちません。

2. なぜあの人が?と思える人がバイヤーになる訳

他に任せられる仕事(部所)がないからです。部下を使いこなせないタイプで、店舗には置いておけない人物を、やむなくバイヤーにする場合があります。
もっとも、こんな人事をする企業に将来はありません。

3. どうにもならないバイヤーでも居続けるのですか?

“ダメ”バイヤーに当ったら、悲劇としか言い様がありません。そんな時、相手企業の人事でバイヤーが異動になるまで、じっと待っていては、埒はあきません。
自分だけでなく、上司も巻き込んで、積極的に相手先企業のトップ及び役員クラスに働きかけましょう。他のベンダー・メーカーにも呼びかけて、一致団結して働きかけると効果バツグン。

4. バイヤー同士は相手をどう評価してる?

本音は言いません。バイヤーはその部門を任された、言わば「一国一城の主」と思われています。
「主」同士の”仁義”なのか、バイヤーはお互い他のバイヤーの仕事、能力については、ほとんど発言しません。”大人の振り”して、相手を立てています。

5. バイヤーは意外と高級車に乗っているけど……

決して給与が高いからではありません。給与は低いけど、仕事が忙しくて、他に使う事があまりないのです。
そこで、毎日の通勤に使うマイカー位は贅沢しよう、と考えるのでしょう。
ちなみに、私の経験では、高級車に乗っていて仕事が出来たバイヤーは、ほとんど皆無です。

6. 社長が直接評価に加わる事はあるの?

あります。企業規模にもよりますが、かなりの大企業でも、「評価シート」には必ず目を通す、と言う社長は多い様です。
又、創業オーナーの場合、”人事は自分の勝手”とばかりに振る舞っている社長が目立ちます。

7. 裏リベートを要求するバイヤーがいるらしいが?

います。あってはならない事ですが、ほんの一部のバイヤーが、そうした行為をしています。もちろん、就業規則、取引契約に違反しています。
“甘い条件”にウッカリ乗ると、後でヤッカイな話しになります。注意して下さい。

8. 人事部長と商品部長、人事権を握っているのはどっち?

どっちとも言えません。企業により、組織運営の考え方が違いますから、一般論は通用しません。又、時々の両部長の力関係でも、大きく事情が異なります。
常日頃より、相手先企業の組織運営を分析しておく事が大切です。

9. バイヤーを接待したら取引停止って、ホント?

ホントです。契約書にも、相手企業の服務規定にもそう書いてあるはずです。喫茶店でコーヒー代をご馳走になる事も許されない企業もあります。
しかし、建前と本音を使い分けている企業が大半です。そう言う企業では、たまには適度な接待をしないと、取引に支障を来す場合があります。贈答についても事情は同じです。

10. 契約ミスで数千万の損害を出したバイヤーはどうなる?

一概に言えませんが、何らかの処分はあります。
しかし、一般に小売企業は、従業員の不祥事には寛大です。会社側にも様々な弱みがあるからでしょう。
仮に何らかの処分をするにしても、内々に済ませてしまい、正式な辞令を出さない場合が多い様です。

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8. まとめ

今回は、バイヤーの評価、及び給与について解説しました。
同じビジネスマンとして、評価、給与の問題は、立場は違っても分かり合える部分が多かった事と思います。
小売企業に限らず、日本企業の人事制度、評価制度は、今日、大きな変革を迫られています。 当然、給与制度も変わらざるを得ません。
年功序列に守られた、”温室の様な世界”はもう存在しないのです。
多くの小売企業では、間もなくバイヤーの評価に「成果主義」が導入されるでしょう。
ベンダー・メーカーの営業マンである皆さんも、又、同様に「成果主義」で評価されるはずです。 バイヤーと営業マンは、ビジネス上は対立する関係です。
しかし、お互いの企業内での立場を十分理解した上で、企業を代表した厳しい戦いをして下さい。
その上でそれぞれが自社内で高い評価を受ける様な成果を出して欲しいものです。
今回のセミナーはこれで終わりです。

最終回に寄せて

このセミナーの最終回、第10回までご参加くださいまして、ありがとうございました。
お陰様で、最終回までなんとか書き上げる事ができました。
本セミナーの企画を株式会社アイコンセプトの池上社長よりお聞きした時、悩みました。
私はそれまで、雑誌原稿だけで、Webサイト用の原稿を手がけた事がなかったからです。
それともう1つ。
私の原稿は図版を多く使うので、事務局に大変な負担をかけるのではないか、という点が心配でした。
どちらの点も、事前に事務局より快く了解していただき、ホッとして、このセミナーをお受けする事になりました。
しかし、お受けした途端に、又、難題を作ってしまいました。
私の原稿が長いのです。
当初、企画を説明された時点では、1回に3~4枚で、と言う依頼でした。
しかし、あれも入れたい、この点も説明したい、この図版を組み込もう、という具合で、3~4枚ではとても収まりません。
そこで又、事務局にお願いしました。
一番長かったのは、第3回で、400字原稿で100枚以上ありました。 事務局の方はさぞ大変であっただろう、とお詫びするとともに、ご協力に感謝いたしております。
さて、このセミナーは、一般に刊行されている流通業向けの新聞雑誌、書籍では、なかなか目にする事のない「バイヤーの実像」を、ベンダー・メーカーの営業マンの皆さんに知っていただこう、という主旨で開催されました。
その目的は2つありました。

1. 戦い(営業)をするには、先ず敵(バイヤー)をよく知る事が重要だ。
2. お互いが相手をよく知り、理解する事で、真のコ・ワーキングを確立する。

一見、相矛盾するように見えるこの2点ですが、決して矛盾するものではないと考えます。
相手の立場、事情を理解し、尊重すべきは尊重した上で、ビジネスはビジネスとして厳しい商談を行う。
それが、バイヤーと営業マンの正しい関係だと考えます。

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セミナーの内容について、もっと掘り下げて解説するべきだったと反省しております。 しかし、現在の私の技量では、ここまでしか書き込めませんでした。
今後さらに研究を重ね、別の機会にさらに充実したレポートを書きたいと考えております。

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最後に、私の我儘に約1年間おつき合いいただき、大変なご苦労をおかけした事務局の皆さんに心より感謝し、お礼申し上げます。

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いよいよ「ウォールマート」が日本進出です。戦う相手に不足はありません。 しかし、「竹槍」で勝てるはずもありません。
ぜひ、このセミナーを機会に、ベンダー・メーカーの営業マンの皆さんも、小売業の実態を勉強していただきたい。
そうして、「生・配・販」一体となって、日本の小売業を発展させていただきたいと思います。 活躍を期待しています。

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