8.消費者ニーズに合わせた品揃え―来店時間帯の視点から  研究員 丸山正博 氏

営業時間の延長と売上高への効果

今回は、「顧客ニーズに合わせた品揃え」の中でも、「来店時間に応じた品揃え」についてPOSデータとスキャンパネルデータから行った分析事例を紹介する。

対象店舗:首都圏の駅前立地GMS
期間:2000年3月~5月の3ヶ月間
顧客数:約1,500人
カテゴリー:食品、日用雑貨

この店舗には、(財)流通経済研究所がスキャンパネル(通称ショッピングメイト)を設置し、ポイントカード方式によって約1,500世帯の購買履歴を収集している。

ショッピングメイトは図表1のように30代~50代の女性が大半である。

 

図表1:ショッピングメイトの世代構成

この店舗は2000年3月1日より営業時間を従来の10時~20時から、閉店時間を1時間繰り下げ10時~21時とした。

営業時間を延長したことで売上高にどのような効果があったのか。

売上高を次式のような要因に分解して、営業時間延長直後の3月~5月における時間帯別売上高を比較することで検証したものが図表2である。

売上高 = 延べ購入客数 × 一回当り買上個数 × 平均商品単価

 

図表2:3~5月の時間帯別売上高と内訳

グラフは午前、午後、夕方、夜、延長時の各時間帯における、1時間当りの売上高とその要因の推移である。

時間帯別の売上高は、延べ購入客数(来店客数)にほぼ比例しており、夕方が最も多い。スーパーは食品の売上が中心なので、夕食の準備にあたる夕方に、時間当り売上高が最大となるのである。

一方で延長時間帯である20時~21時の売上高は、全日の平均と比べて57%減少している。この最大の理由は、「延べ購入客数」が48%減少しているからである。20時以降は、多くの家庭では夕食後なので、スーパーの来店客数が大きく減少し、「時間当り売上高」も低下するのである。

従って、時間当り売上高という点では、営業時間の延長は効率的な店舗施策ではない。

もっとも時間延長によって、従来の営業時間では来店できなかった顧客層を獲得でき、そのニーズにこたえることができれば、営業時間延長も効果があると考えられる。

そこで、延長時間帯にはどのようなニーズがあるのか、どの「カテゴリー」が多く購入されているかを分析する。

延長時間帯によく購入されるカテゴリー、あまり購入されないカテゴリー

図表3は、3~5月の平日について、ショッピングメイトの購買履歴をもとに、20~21時の延長時間帯の「1000人あたり売上個数(以下、点数PI)」(①)を、10~20時の点数PI(②)と比較して、その点数PIの比(⑤)を並べたものである。

 

図表3:延長時間帯(平日)に多く購入されたカテゴリー

つまり上段の商品ほど、延長時間帯に相対的に多く購入されたカテゴリーである。

具体的には、惣菜類、デザート・ヨーグルト、果実飲料、パン・シリアル類などその日の夕食や翌日の朝食用と思われるカテゴリーが、延長時間帯に多く購入されている。

また、商品単価について、20~21時と10~20時とを比較した商品単価の比(⑥÷⑤)を見ると、大半の商品で延長時間帯の商品単価が下がっていることが分かる。

これは、惣菜類で閉店間近の見切り品による値下げの影響もあるが、アルコール飲料や果実飲料、アイスクリームなどで、直後に消費するような個食的な飲み切り・食べ切りサイズの小容量の売れ行きがよいためである。

例えば、アルコール飲料では20時以降はウィスキーや一升瓶の日本酒よりも缶ビールのほうが相対的に良く売れており、アイスクリームでは小型カップの売上が高かった。

次に図表4は、平日の延長時間帯における点数PIの比が小さいものである。

 

図表4:延長時間帯(平日)にあまり購入されなかったカテゴリー

つまり図表3とは反対に、上段の商品ほど延長時間帯にはあまり購入されないカテゴリーである。

具体的には、野菜・ホームメイキング材料・食用油・調味料といった調理を必要とするカテゴリーが、延長時間帯にはあまり購入されていない。

また商品単価については、図表3と同様に大半の商品で低下しているが、調味料など数カテゴリーは商品単価の比(⑥÷⑤)が1を超えており、延長時間帯の商品単価の方が高い。

以上のことから次のような購入パターンを指摘できる。

第一に、延長時間帯の顧客は、惣菜やデザート・ヨーグルトなど、その日の夕食や朝食用で調理の手間を要しない食品を積極的に購入する一方で、生鮮食品など調理を要する食材の購入は少ない。いわばスーパー本来の目的よりも、コンビニエンスストアに近い目的で利用されているといえよう。

第二に、商品単価は、大半の商品で延長時間帯のほうが低かったが、値引きが頻繁な調味料は延長時間帯のほうが高かった。

一般的にスーパーでは集客のために、生鮮食品の品揃えと加工食品や日用雑貨の価格プロモーションが重要であると考えられる。

しかし上記の購入パターンに基づくと、延長時間帯の顧客ニーズに応えるためには、生鮮食品の品揃えや、調味料など加工食品の値引きは優先度の高いものではない。むしろ惣菜コーナーの充実や、小容量の個食など夕食・朝食関連商品の品揃えが重要であると考える。

顧客のニーズをつかむには…属性ではなくて購買結果が重要

ところで、今回の分析では延長時間帯の来店客のニーズを把握するのに、来店客の年齢・職業・家族人数等のデモグラフィック属性ではなく、購買データを活用した。

その理由は、①顧客のニーズは、大まかな属性よりも何を買ったかという購買結果に端的に表れる、②顧客属性を細かに調査することは大きなコストを要する、からである。

今回の分析では実際に、延長時間帯の来店客属性も検証しており、フルタイム勤務者や単身者の比率が高かった。

しかし「顧客ニーズに合った品揃え」を実務的に解決する際は、顧客属性ではなく購買結果からアプローチする方が、より精度が高く低コストで、結果が得られることを添えておく。

次回は、「消費者の購買行動とそれに対する対応」を掲載予定です。