4.消費者の「買い方」(その1)   研究員 寺田英治 氏

「買い方」とカテゴリーマネジメント

消費者の「買い方」、すなわち、どのような過程を経て購買意思決定をしているのか?これは、マーケティングの分野において、最も身近で最も難しいテーマである。 カテゴリーマネジメントの要素の一つとして「消費者視点での売場の再構成」が挙げられるが、これを実施するためには、消費者の購買意思決定過程についての理解を深めることが、必要不可欠である。 今回から3回に渡って、特に購買行動の結果(POSデータやパネル購買履歴データなど)から、消費者の「買い方」(意思決定過程)を把握しようという試みについて紹介したい。

「買い方」の説明の前に、現在のカテゴリー分類について、軽く触れておこう。実際に店舗を運営する上で、全ての商品をアイテム単位で管理することは煩雑に過ぎて現実的ではない。通常は、JICFS分類やチェーン毎の独自設定カテゴリーなど、階層構造を持ったカテゴリーに分類され、それに従って管理されている。その分類ルールは、素材や商品形態に基づいた、言わば「供給者視点」の分類が主であり、カテゴリーマネジメントの目指す「消費者視点」では無い。ただ、消費者の「買い方」を記述するにあたっては、現実の枠組みに沿った方が理解しやすいため、既存のカテゴリー分類の存在を前提に話を進めていく。

さらに、購買結果を表す有効なデータであるパネル購買履歴データについても触れておく。パネル購買履歴データとは、一般にFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム)データと呼ばれ、レジ清算の際にカードを通じて購買情報を吸い上げたものである。このデータによって、顧客一人一人の購買履歴を知ることができ、それぞれに合ったサービスを提供することが可能となる。分析によく用いられるのが、あるカテゴリーにおける購入ブランドの移り変わりのデータ(スイッチング・データ)や、一定期間内の購入商品群(期間併買)のデータなどである。

さて、スーパーマーケット業態において、「カテゴリーに関する買い方」には、大きく分けて2種類のアプローチが存在する(図表 1参照)。一つは、同時購買からカテゴリー間の関係を読み取るものであり、もう一つは、カテゴリー内の競争構造を読み取るものである。

 

図表1

カテゴリー間の関係を読み取る

これは、ショッピングバスケット分析やマーケティングバスケット分析などと呼ばれるものである。分析に当たっては、レシートデータを用いる。 同時購買されやすい商品の組み合わせを知ることにより、クロスMDや二重陳列、レイアウトへの示唆などが期待できる。カテゴリー横断的に、補完の関係を主に取り扱うと言って良い。

同時購買は購買意図及び来店目的によって影響を受ける。スーパーマーケットの場合、店外にて形成される購買意図はかなり曖昧であり、店内での意思決定が多くを占めていると考えられる。従って、売場にて刺激を与えることによって(レイアウトや関連陳列など)、消費者の持っていた目的に対してソリューションを提供することができ、結果的に購買の促進が期待されるのである。

カテゴリー内の競争関係を読み取る

 

図表2

これは、消費者があるカテゴリー内の商品を買う際に、どのような意思決定過程を経て購入する商品を選択するのかを探ろうという試みである。 消費者の購買意思決定において、購入商品の絞り込みは図表 2のような過程としてモデル化されている。※1 母集団(あるカテゴリー内の全商品)をユニバーサル集合とする。知名集合とは消費者が名前を知っている商品集合であり、その下位集合として、買物の目的を果たすことが期待され、かつ、入手可能なアイテムを、考慮集合とする。さらにその下位集合として、選択の直前に比較検討される選択肢の集合を選択集合とする。このモデルにおいて、特に考慮集合や選択集合は消費者の持っているある基準によって絞り込まれた集合である。それらを一つのサブカテゴリーとして定義することにより、その消費者の購買意思決定過程に合致した売場作りが可能になると考えられる。

使用するデータについて

今回を含め3回に渡って、消費者の「買い方」の記述について述べるが、特にPOS、パネルデータからの分析に焦点を当てたい。消費者の「買い方」についての理解を深めるに当たって、求められる情報は多種多様に及び、むしろ購入結果のデータだけでは不充分である。ただし、実際に売場の操作を考える上では、消費者行動についての正確な理解は必ずしも必要では無い。アンケート調査や実験などは無論有益ではあるが、その前に、購買の結果という確実なデータから示唆を得ることが重要であると考える。

次回はレシートデータからの同時購買分析について、次々回は購買履歴データからの競争市場構造分析について述べることにする。

参考文献

※1 A. D. Shocker, M. Ben-Akiva, B. Boccara, P. Nedungadi (1991), ‘Consideration Set Influences on Consumer Decision-Making and Choice: Issues, Models, and Suggestions’, Marketing Letters, Vol.3, No.3. なお、消費者行動研究については、清水聰 (1999), 『新しい消費者行動』, 千倉書房 に詳しい

次回は、「消費者の『買い方』(その2)」です。