3. 「バイヤーの一週間」密着レポート

はじめに
8月某日(月)
8月某日(火)
8月某日(水)
8月某日(木)
8月某日(金)
8月某日(土)
8月某日(日)
おわりに

はじめに

前回のセミナーで「バイヤーの仕事」を体系的に整理して解説しました。バイヤーがどんな仕事をしているのか、俯瞰的に理解することができたと思います。

しかし、バイヤーの仕事を俯瞰的に理解しただけでは、ベンダー・メーカーの営業マンの活動にはあまり役立ちません。バイヤーの実際の業務は、業務体系通りに進行している訳ではないからです。
バイヤーの仕事を知り、その事で営業活動をより強力に、効率的に遂行しようとするには、”生身”のバイヤーを知る必要があります。

そこでセミナー第3回は、あるバイヤーの一週間の行動を、文字通り朝から晩まで密着取材し、レポートします。バイヤーの行動、バイヤーの考え、バイヤーの悩み、バイヤーの全てを知ってもらうのが、このレポートの目的です。

それでは、今回、「バイヤーの一週間密着取材レポート」でお世話になるバイヤーを紹介します。

石神正太氏(仮名)、35才。石神氏は中堅スーパーマーケット企業に勤務しています。
現在は本部勤務で、商品Ⅲ部の住関連部門のバイヤーをしています。
大学卒業と同時に現在の会社に入社。最初に配属された店舗では鮮魚の担当を1年半、日配を1年半経験。27才で異動となり、次の店舗では青果を担当。28才の時、青果のチーフに。チーフを2年務めた後、異動となり、新しい店舗ではいきなり未経験の住関連部門のチーフとなる。その店で2年間チーフを経験し、3年前の春の定例異動で、本部勤務となる。 本部では商品本部の中の第Ⅲ商品部、住関連部門のアシスタントバイヤーを1年務め、昨年の3月1日付で、バイヤーに昇格した。
家族は妻と子供2人の4人。妻は30歳、店舗で青果チーフをしていた時に、新入社員として配属になって来た時に知り合い、3年の交際の後、結婚。長男は5歳、小学校1年生だ。長女は3歳。幼稚園に通っている。本部から10kmほど離れた町の、賃貸マンションに住んでいる。

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8月某日(月)

AM.5:30
起床

目覚まし時計の音で目を覚ますが、まだまだ眠い。体中が筋肉痛。昨日は店舗の応援で久しぶりに一日中売場に立った。午後は倉庫の片付けもやった。本部勤務になってから、体がなまっているのでこたえた。
いつもの起床時間は6:30頃なのだが、今日は月曜日。月曜日はいくつもの会議があるので、早く出社し、準備をしなくてはならない。資料は先週すでに仕上げてあるので、いつも通りの出社時間でも良いのだが、月曜日は幹部達が全員早くに出社して来るので、いつも通りの時間には出社しにくい。

AM.5:40
新聞を読む

洗面を済ませ、自分で新聞を取りにいく。女房はキッチンで朝食の準備をしている。早朝出社の時は、女房も早く起きなくてはならないので、機嫌が悪い。いつもは、女房が新聞を取ってきてくれる。自分が起きた時は、リビングのテーブルの上に置いてあるのだが。新聞は地方紙のみ購読している。以前は、「日経」も購読していたのだが、4,383円という金額は子育てまっ只中の家計には大きい金額。女房の一言「新聞代位、会社で出してくれないの?…」で中止。それ以来、「日経」は早めに出社して会社で読む事にしている。
テレビ 新聞を読みながら、テレビのスイッチを入れて、ニュースを観る。帰宅が遅いのでテレビを観るのは朝だけ。夜はスポーツニュースを観る位。朝のニュースではやはり天気予報が気になる。本部バイヤーになって、しかも担当が住関連部門なので、天気は仕事にはあまり影響ないのだが、店舗にいた時しみついたクセで、天気予報は必ず観る。

AM.6:00
朝食

トーストにコーヒー、昨日の残りもののサラダ、という献立。子供が生まれる前は、オムレツが出たり、サラダも毎日メニューが変わっていたのだが…。それでも我が家はまだ良い。朝食が出てくるから。同僚のA君の所は、朝食を作ってもらえず、出社途中にコンビニに立ち寄って、サンドと缶コーヒーを買い自分の車の内で食べている。

AM.6:20
出発

出がけに女房から「9月の件、早く返事をください」と督促される。女房の姪が結婚するのだと言う。それで伯母夫婦揃って出席して欲しい、と案内状が届いている。しかし、その日は月末の日曜日。本部に来てから、日曜日も月に2回は休める様になったのだが、原則として月末の日曜日は店舗に出る事になっている。事情を話せば休みを取れるのだが…。課長の機嫌の良い時を見計らって話そう、と思っているうちに、時間が経ってしまった。「なにも月曜日の朝、わざとらしく口に出す事ではないだろう」と、ムッとしつつも、曖昧に返事して玄関を出る。

AM.6:45
出社

本社駐車場に着く。既に3分の1程が車で埋まっている。ビジネスバッグを抱え、急ぎ足でオフィスに向かう。

AM.6:50
机へ

分のフロアは2Fだ。本社ビルは、1Fが受付と商談室、経理部。2Fが営業本部。3Fが管理本部と役員室。4Fが会議室、資料室になっている。2Fオフィスのドアを開く。いつもの事だけど、この一瞬は緊張する。ドアを開け、同時に元気よく「おはようございます」とあいさつする。当社は「あいさつ」にうるさい。
想い出す事がある。異動が発令され、本部勤務になって、初めてこのドアを開いた1年半前の事。緊張のせいか、伏目がちに歩を進め「おはようございます」と声をかけ、山田商品本部長の席に向かおうとしたその時、「声が小さ~い!」と一番奥の方から怒鳴り声が発せられた。顔を上げて、声の方向を見ると、そこに居るのは、顔もよく知らない鈴木営業本部長、現社長だった。「石神君!あいさつはもっと大きな声で元気よく!」と声をかけてきた。その声の大きさにビックリし、鈴木営業本部長が自分の名前を知っている事に二度ビックリした。そんな昔の事を想い出しながら自分の席に。 あいさつ 山田商品本部長、野村副部長は既に出社している。本部長は早くも机の上に資料を開き、なにやら考えこんでいる。副部長は商品Ⅰ部の清水部長と話をしている。バッグを机の下に収め、本部長、副部長の机にあいさつに行く。自分の直属の上司である高橋商品Ⅲ部長はまだ顔が見えない。しかし、同じ部のバイヤーは5名中3人が既に机について仕事を始めている。

AM.7:00
仕事開始

月曜日の午前中は、営業会議が続く。前週の営業実績に関する会議が多いので、会議前に必ずデータ分析を行い、自分の考えをまとめておかないと、会議で大変な目に遭う。

資料

商品部スペースの片隅に棚があり、そこに、前週の「実績レポート」が置かれている。棚に出向いて自分の部門のレポートを取って机に戻る。本部に来たばかりの頃は、レポートが出力されるのが昼頃だったため、午前中の会議用の資料を用意するのに苦労した。店舗にお願いして、数値データを日曜の夜にFAXしておいてもらい、月曜日の朝は6時前に出社して集計した。それがアシスタントバイヤーの仕事だった。本部で最初に身につけた能力は、電卓へのデータ入力だった。

資料分析

机の上に「実績レポート」を広げ、数値分析を始める。実績レポートの内容はバイヤー用のパソコン画面でも見る事ができる。しかし、1つ1つの数値を徹底分析するには紙の上の数値をじっくりながめ、書き込みをしたり、マーカーした方が使いやすい。現在の本部システムが稼動したのは3年前。スタート時点では、データは全て画面で見ればよい、ペーパーレスがシステム運用の原則だ、と言うシステム部長の考えから、「実績レポート」は出してもらえなかった。しかし、それではあまりにも使いにくい、という声が多くのバイヤーから持ち上がり、システム部の抵抗にあいつつも、やっと1年後に、現在の「実績レポート」を出力してもらえる様になった。
各店別の部門実績、中分類実績と順番に定例数値に目を通していく。大泉店の実績が悪い。マーカーする。あそこの店は住関連部門の主任が先月変わった。新しい主任になってから、日を追う毎に数値が下がっている。
売上関係の数値をチェックし終えたので、次に昨日の発注データを見る。当社はSMなのでほとんどの部門は日次発注だが、私の担当する住関部門は商品によって、日次発注と週2発注、週3発注に分けられている。発注に不慣れな担当者は発注ミスをおこす事が多い。谷原店は担当者が2週間前に変わって、まだ慣れていないから要注意。

AM.8:45
朝礼

毎朝、8:45になると本部ビル全館にラジオ体操の音楽が流れる。これを合図に本部全員がそれぞれのフロアの所定の場所に集合し、体操を行う。体操が終わると、その場で週初の朝礼が行なわれる。本社での朝礼は、この週初朝礼と月初朝礼の2つ。月曜日以外の日は各部所毎にミーティングを行う事になっているが、ほとんどの部所はやっていない。週初朝礼はいつもは営業本部長の訓辞で始まるのだが、今日は会長が3Fから下りてきた。前期末である8月の業績が悪いので”檄”を飛ばしにきたのだ。創業者でもある会長の顔が見えるとフロア全体がピーンと張りつめた空気となり、営業本部長をはじめ幹部全員の顔つきが一瞬にして変わるのがわかる。そんな訳で今朝の朝礼は会長のお話しだけで時間切れとなり、そこで終了。

AM.9:05
商品Ⅲ部のミーティング

私の会社では、商品本部はⅠ部、Ⅱ部、Ⅲ部と3つの部に分かれていて、それぞれに部長と課長がいる。各部にバイヤー5~6名、アシスタントバイヤー3~5名が属している。アシスタントバイヤーが付く部門と付かない部門があるが、それはその部門の仕事量とバイヤーの力量を部長が判断して決めている。
ミーティングには全員が参加するので、4Fの小会議室に移動して行う。ミーティングとは言っても内容はほとんどが「連絡」なので、商品部内ではこの集まりを「連絡会」と呼んでいる。今朝も高橋部長が何枚ものコピーを手にして、次から次にその内容を読み挙げている。誰もまじめに聞いていない。時間のムダと皆思っているが、誰も口にはしない。当の部長だってイヤイヤながらやっているのは見てわかる。しかし、この商品部長はその前に総務部長だった人物。とにかく管理面にはウルサイ。着任早々に「商品部は会議やミーティングがいいかげんだ!」と爆弾を落し、それ以降会議、ミーティングの時間が長くなってしまった。

AM.9:55
席に戻る

ミーティングが終わり2Fの自分の席に戻ると、机の上に、電話メモが8枚も置いてある。ベンダーから3枚、メーカーから2枚、店舗から3枚。メモに目を通しながら、携帯電話に入っているメールを確認する。個人の携帯なので、業務上のメールは入れないでくれ、と伝えてあるのだが、メーカー、ベンダーに番号を知らせてしまっているので、やはり入れてくる。今日も3件入っている。いずれも商談の件だ。メモもメールも返事をしている時間はない。

AM.10:00
商品部会

この部会が商品部の正式な会議。商品本部長は当然だが営業本部長も必ず出席するし、時々社長も顔を出す。今日はひょっとしてと思ったら、案の定、会議が始まって1時間程したら社長が入ってきた。社長が来ると会議が長くなる。それが困る。会議では社長が来る前に、上期の実績予測と上期末決算の準備、という議題が終了し、下期の改装計画のうち9月末に予定している大橋店について、改装内容の最終確認を行っていた。今日の会議で決裁が出ないと作業スケジュールが狂ってしまう。
ところが、社長が顔を出した途端に改装の検討は中断。営業本部長も社長に気を遣い「社長、何か一言お願いします。」とやったもんだから大変。社長がはしゃいでしまった。やっと会議が終わったのは12:20。会議と言っても社長の話しが80分も続き、その話しが終ったところで、会議も終わってしまった。

PM.12:25
席に戻る

「電話メモ」がさらに6枚増えているが無視して昼食に出る。

PM.12:30
昼食

昼食は本部4Fの休憩室で、手持ちの弁当を食べる人、給食センターに頼んだ弁当を食べる人、外に出る人、それぞれだ。私はほとんど外に出る。昼食の時くらい会社から離れないと、気分が晴れないからだ。ビジネスマンの「入門書」を読むと「昼食はなるべく上司に同行するのが良い」「食事をしながら上司の話しを聞くのが勉強になる」と書いてある。そうは思うけど、そこまで徹底するビジネスマンには成りきれない。自分の上司、高橋部長はタバコが嫌い。私はヘビースモーカー。一緒に食事に出ると、その事だけでも気をつかって疲れてしまう。今日は、同僚の松井君、人事部の金子君、それにシステム部の上田課長をさそう。いずれもサッカーファンで昼食を食べながら「toto」の話しをするのが楽しみ。これをサラリーマン社会の”裏人脈”と呼ぶのだろうか。

PM.13:20
社に戻る

席に戻ると高橋部長がジロリと睨む。部長の考えはこうだ。月曜日は会議の連続。会議は時間が伸びる事も多い。だから、昼休みがとれない事もある。そのため昼食は、社内で素早く済ませられる様、弁当を持参しておくのがビジネスマンの心得だ、ということ。部長の「お説教」を目で感じながら急いで午後の会議に出席する準備をする。

PM.13:30
営業本部全体会議

社内では「全体会議」と略称する。営業本部長以下、営業部全員と社長が出席する。この会議は店舗運営部が主体で商品部はオブザーバー的存在。時折、商品問題に話しが移るがそれも商品部長、課長まで。私達ヒラのバイヤーはほとんどの場合聞いているだけ。だから、退屈この上ない。私はいつも「実績レポート」を持っていって、データをチェックしている。あたかも資料を見ながら会議に積極的に参加している様に見えて都合がよい。隣に座っている同僚バイヤーの江川君は、さっきからしきりに携帯でメールを打っている。携帯電話、これなくして会議には出られません、と言っている。これが参加者の実態だ。しかし、会議は続く。
今日は、この後も15:30から4Fで商品会議、17:30から西ヶ丘店改装の打ち合わせと、まだ2つも会議があるのだ。

PM.20:40
会議終了

あーッ、疲れた。今日一日、色々な指示が出され、頭の中はゴチャゴチャ。ほとんど記憶にない。それでは困るので、これから会議の内容を整理する。

PM.21:50
退社

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8月某日(火)

AM.7:30
起床

今日は火曜日なので、いつも通りの起床。しかし、疲れが抜けない。昨日、全ての会議が終わったのは20:40。会議では、頭も体力もほとんど使っていないのだが、出席しているだけで疲れる。会議の長い会社はダメになる、というがその通りだと思う。昨日は結局、仕事らしい仕事はまったくできなかった。

AM.7:35
出発

会社までの通勤は自分の車だ。社用車が使える会社もあると聞くが、当社では以前より今の方法だ。通勤に自分の車を使うのは当然の事だ。しかし、仕事で店舗に行く事、ベンダー・メーカーを訪れる事も少なくない。その時は直行、直帰する場合が多いので、自分の車を使う事になる。会社からは、距離で計算したガソリン代が支給されるが、車輌自体の損料はどうなるのだろうと思う。
会社までは約30分。毎朝決まってラジオを聴きながら走っている。バイヤーの中には「勉強家」もいて、会社への通勤、又店舗巡回の時も含めて車に乗ったら必ず「通信教育」のカセットをかけて勉強している者もいる。自分もやらなければと思っているのだが…。本部の課長以上になるには「販売士1級」を取得することが義務づけられているのだ。

AM.8:15
出社

平日のこの時間だと、まだ半分位しか出社していない。カバンを置き、新聞ラックから昨日の「日経新聞」を取って机に戻る。当日の新聞は、先ず商品本部長が読み、その後各商品部長に回り、そこが終わってラックに収められる。しかし、部長や課長は自宅で読んでいるらしく、会社で読む姿は時々目にする程度。商品本部長は会社で読むのが日課になっているため、新聞は毎日必ず朝一番で本部長の机の上に置かれる。
その商品本部長だが、新聞を読むのが遅い。朝、読んでくれればよいのだが、午後になる事が多く、時としては2~3日分が机にたまってしまう。そうなっても誰もその新聞を取る事はできない。新聞は翌日以降に読むもの、これが当社の恒例になっている。今日は火曜日で「日経流通」が発刊される日。そして、商談日。商談時に相手のベンダー・メーカーの営業マンから、今朝読んだ新聞記事が話題になる事がある。話題に入れずに恥をかく時がある。

AM.8:40
店舗へ電話

昨日は1日中会議で、電話がほとんどできなかったので、今朝は早くから電話する。先ず、新任担当者のいる横川店に掛ける。先に主任の荒木さんと話す。「昨日の発注にはずいぶんと問題があった」と伝えたが、まったく気づいてない様子。新人担当者の発注には、主任が1ヶ月間は立ち会う事になっているのに。明日の発注には必ず立ち会う様に要請し、電話を切る。

AM.9:10
商談室確認

席に戻って今日の商談の準備を行う。当社では、前週の木曜日までに商談申し込みを済ます事になっている。受付は商品本部商品管理課の女性、多田さんが行っている。当社には、商談ブースが12しかない。通常はなんとか間に合っているが、新商品の発表時期や改装商談の時、年度末、年度初めなどはブースが足りなくなる。特に6人以上のブースは2つしかないので、早く予約が入ってしまう。担当の多田さんは、ベンダー・メーカー、とバイヤーの間に入っていつも苦労している。時間帯を調整するのも彼女の役目、と言うより責任だ。
自分がバイヤーになった当初、事情がわからないまま、自分が希望する時間帯とブースを無理やり押し通し、その頃担当していたAさんとトラブルになった事がある。それ以降、商品管理課の皆とも対立してしまい、ずいぶん苦労した。管理課は商品マスターやPLUマスターの管理もしており、この部所と対立しては日常業務の遂行に支障が生じる。今は上手くやっている。時々、クッキーなど差し入れて”ごきげん”を取る事も忘れない。

AM.9:15
課長との事前確認

今日の商談は6社だ。そのうち、2社の商談は課長に立ち会ってもらう商談だ。この2件について、課長と打ち合わせる。茨城商事との商談は下期のリベート条件について。ユタカ物産は10月のタイアップ販促の打ち合わせだ。
茨城商事は、上期の実績が計画に達成しない見込みで、そのため、下期の交渉が難航している。先方の言い分はこうだ。「上期と同じ条件は出せない。御社側の対応をもっと積極的に取ってもらいたい。特にチラシへの掲載回数、内容を改善して欲しい」という事だ。そして具体的な「チラシ企画書」を前回の商談時に持参した。これに対し、課長の見解は「計画未達は当社だけの責任ではない。茨城商事の帖合メーカーの新商品が弱く、競合メーカーにシェアを奪われた事が主な原因だ。それが証拠に同じ消耗品ベンダーの千葉商会は売上を伸ばしている」というものだ。
私もそう思うのだが、茨城商事はこの件に関して担当営業だけでなく、上司の浜田部長が商談に加わり、今日は営業本部長の三国常務も同行すると言う。そこで、当方も課長に同席してもらう事になったのだ。課長から高橋部長にも報告が上がっており、場合によっては部長、そして商品本部長も加わる事になっている。
当社では、この様に商談の内容によって上司が同席する事がある。その判断は前回商談の結果報告と今回商談の事前確認(月曜日に行っている)の時、課長が行う。
もっとも、定例商談日である火曜日は商品本部は原則として全員、本部勤務が命じられている。事前に予定されていなくても、バイヤーが要請すれば課長、部長はすぐに商談に加われる組織体制になつている。

AM.9:20
高橋部長へのあいさつ

課長との打ち合わせが終わった後、部長にあいさつに行く。(株)ツクバの専務が部長にあいさつしたいと言う事で、本日の商談に同行してくる。「目的のハッキリしないあいさつだけの商談は受け付けない」というのが部長の考え方だ。しかし、自分としては、(株)ツクバとは取引を拡大したいと考えているので、部長にその旨を話して商談に同席してもらえる事になったのだ。部長も了解してくれた。その上、商品本部長にも一言あいさつしてもらえる様手配してくれた。そんな訳で、朝のうちにお礼もふくめてあいさつに行ったのだ。
なにかと”口ウルサイ”高橋部長だが、こちらがキチンと手順をふむと、それなりに対応してくれる。「上司を上手に使うのもビジネスマンの仕事」と何かの本で読んだ事がある。その通りだと思う。

AM.9:30
商談

9:28に机上の電話が鳴る。一番目の商談の相手、(株)東北が来社。商談ブースに向う。8番ブースのドアを開けた途端にムカつく。予定外の人間がそこに居るからだ。(株)東北の営業担当者は課長の村上さん。課長とは言ってももう50歳を越えており、言わば万年課長。まったく能力が無い。何事も自分一人では決められず、すぐに応援を求めるタイプ。前回の商談で現在(株)東北の扱いになっている「浴プラ」のEメーカーについてデザイン、価格の面から検討した結果、問題あり、との結論に達した。新メーカーを検討し、Gメーカーの商品に変える事を決めた、と通告した。
当然のことだが、その場で強く反発した。「Eメーカーの商品は長年、シェアNo.1であり、御社での実績は悪くないはずだ。Gは後発メーカーであり、シェアも低い。今、メーカー変更するのはマイナス面しか考えられない。それをなぜ敢えて強行するのか」というのが(株)東北の言い分だ。
ベンダーの営業にとって、メーカーを変えられるのがどれだけ大変な事か、それはわかっている。しかし、普段からそれなりにアプローチしているならわかるが、日頃はEメーカーの事などまったく触れもしない。安心し切っている。それでいて、「変える」と言った途端に懇願したり、トップメーカーをはずしていいんですか、と脅してきたり。
先週もEメーカーから電話があって、近々に会って話したいと言ってきたが、ベンダーを窓口にしているので(株)東北を通してくれ、と言っておいた。村上課長からその旨、商談アポがあったが、今さらメーカーと話す事もない、と断わっておいたのに。追い返すのも大人気ないので、とりあえず席について商談を始める。
そうしたら、いきなり、村上課長は「これでどうでしょう?」と見積書を出した。見ると、Eメーカー商品の見積書だ。従来より、一律5%引いてある。口には出さず腹の中で「バカめ!変えるといった途端にこれだ!日頃は取引は価格だけではないはずだ、と言い張っていながら……」とつぶやく。

AM.10:05
次々に商談

(株)東北との商談は平行線のまま時間切れ。次の相手、トーヨー(株)が受付に来ている事を多田さんから、内線で知らされている。ブースも同じなので、資料等はそのままにして、トーヨー(株)を待ち合い室に迎えに行く。しかし、こういう商談方法は、部長から厳しく注意されている。商談は続けてやるな。必ず1コマ空けなさい、と言うのが部長の口グセだ。そうしないと、前の商談の内容を整理する事もできないし、次の商談に備える事もできない、というのが理由だ。確かにそう思う。しかし、コマを連続して一気に片付けてしまいたい、というのがバイヤーの本音だ。

PM.15:00
(株)ツクバとの商談

この企業とは「ウマが合う」。個人の感情で取引を判断してはいけないのだが、どうしても感情が入ってしまう。それはどのバイヤーも同じだ。もっと大きな小売企業になると、バイヤーの個人的な感情、判断が取引内容にストレートに反映しない様に、様々なチェックが成されているらしい。けれど、当社くらいの規模では取引内容のほとんどはバイヤーに任されている。
バイヤーは、全てのベンダーから取引条件が提示される前から、自分はどのベンダーと取引きする、と腹づもりを決めている。極端な言い方をすれば、”デキレース”だ。ではなぜ他のベンダー・メーカーと商談をするのか。そう問い詰められると苦しいのだが、立場上一応は商談をしておかないと、回りの目もある。それに、いつなん時、自分のヒイキ先がダメになるかもしれない。その保険も掛けておく必要があるからだ。
(株)ツクバは営業本部長、営業部長、担当課長、窓口になっている係長、計4名で来社。事前にわかっていたので、商談ブースではなく、応接室を予約しておいた。バイヤーだけの商談では応接を使う事は許されないが、役員が同席する場合は、事前に申請すれば許可される。先方を応接室に案内してから、部長を呼びに2Fに上がる。
商談が始まる。当社側は、商品本部長、高橋部長、それに私。商品本部長の商談に同席するのは久しぶりだ。さすがに話が上手い。取引のことなどまったく話題していない。経済情勢、流通業界の話しをした後で、お互いの趣味の話しになる。先方の本部長が好きなゴルフの話しに話題を変えて相手を盛り上げる。こう言う商談を見ると、自分の商談での話題の少なさが改めて反省させられる。

PM.17:15
今日の商談が終わる

これから「商談報告書」を作成する。報告書は商談日の翌日までに提出すればよいことになっているのだが、自分はその日のうちに必ず書き上げる事にしている。

PM.20:40
今日の仕事終了

とは言うものの報告書の一部が残ってしまった。自宅で仕上げる事にして、退社する。自宅に仕事を待ち帰るのは正式には禁止されているのだが、バイヤーのほとんどはやっている。会社としても、一方でサービス残業を強いている関係で、自宅での仕事を完全に禁止する訳にもいかないのだろう。

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8月某日(水)

AM.6:30
出発

今日は店舗巡回の日。東部地区8店舗を回ることになっている。以前は、朝一度本部に出社し、その後店舗に向ったのだが、3ヶ月前から方法が変わった。店舗巡回は直行、直帰が認められる様になった。何人ものバイヤーが共同で提案した結果だ。直行・直帰は一見、楽になった様に感じる。しかし、いざやってみるとそうではない。一度本部に出社してから店舗に向けて出発し、夕方又本社に戻る、という方法では店舗を回る時間は限られている。朝もいつも通りの時間に家を出ればよい。夕方も、本社の退社時間に合わせて本社に戻り、そのまま直ぐに帰宅してしまう事もできる。
しかし、直行・直帰だとこうはいかない。全て自己責任にまかされていると言うのは、辛いものがある。自由にしてよい、と言われると案外、勝手な事もできない。一番目の店舗に入店する時間は決められてはいないが、そうかと言ってオープン後に入店する訳にもいかず、店長の目も気にする事になる。自分は8:30までに入る事に決めている。朝礼が始まるのは9:30だが、その前に売場を回っておきたいからだ。今日の一番目は湖北店。自宅から1時間半かかる。

AM.7:50
湖北店着

道路がすいていたので早めに着く。この店の従業員駐車場は店から離れた所にある。以前の事だが、この店でメーカーの営業マンがお客様用の駐車場に駐車してそれを見つかった。店長から注意されたのに、「空いているのだから、いいではないか」と口答えし、大問題になった。そのメーカーは取引き中止になりかけ、先方の社長が直接、当社社長に頭を下げて、しかも取引き上のペナルティーを払ってやっと解決した。我々本部員も店舗に出向く時は神経をつかう。
車の中でカバンを開き、売場主任に説明する資料を見ながら再度確認する。この店舗の主任は切れ者だから、いいかげんな説明はできない。しかし、今日回る東部地区の住関部門の担当者は皆、この店の高田主任の指導を受けている。組織上は同じ階位だが、高田主任の発言力はスゴイ。そんな訳で、この高田主任はコワイ存在だが、反対に高田主任さえ味方につければ、他の店舗はカンタンだ。全て高田主任に”おまかせ”、高田主任に右にならえ、だから。そんな訳で、自宅から一番遠いにもかかわらず、湖北店を一番目の店舗に選んだのだ。
この事はバイヤーになって初めての店舗巡回の時、先任バイヤーから注意を受けていた。店舗を回る順番にも決まりがある。これがバイヤーと店舗の間の暗黙のルール。これを無視して実力店長、実力主任の反感を買い、店長会議や営業会議で徹底的にいじめられたバイヤーを知っている。かわいそうだった。バイヤーと言っても店舗の協力をもらわなければ何もできない。

AM.8:00
店に向う

車を降りて、店に向って歩き出す。途中、自転車やバイクで通勤して来るパートさん達に出会う。元気にあいさつする。こんな時は、店舗勤務の頃を想い出す。初めて仕事についた店舗の店長から口ウルサク言われた。「パートさんに感謝しなさい。パートさんを大事にしなさい」と。当社はパート比率が70%を越えていて大半の実務はパートさんが行っている。私の部門では、発注作業もほとんどはパートさんが行う。だから、パートさんと親しくなり、コミニュケーションを良くする事はとても大切な事なのだ。店舗巡回の最大の目的はパートさんとの意見交換、パートさんからの情報入手、にあると言ってもいいくらいだ。

AM.8:05
入店

従業員入口から店内に入る。本部員と言えども必ず入店ノートに記入し、「本部」と書かれたバッヂを着けるのがルールだ。バッヂを着けて店長室に向う。店長は公休との事。副店長にあいさつし、今日の来店目的とスケジュールを伝える。バイヤーの店舗巡回は、事前に書面で連絡しているのだが、ほとんどの店舗で目を通していない。今回もそうだった。しかたなく口頭で伝えるがあまり真剣には聞いてくれない。朝は忙しいから、というのも理由の一つだが、本部のやることにはあまり関心がない、というのが本音だろう。かと言って、あいさつせずに店内で仕事をしていると、不愉快な顔をして近づいてきて、イヤ味を言ったりする。

AM.8:10
売場チェック

今日の来店の目的は9月末に予定しているキッチン用品、ゴンドラ6本分の商品入れ替えについて内容を報告し、主任の意見を聞く事だ。改装企画の打ち合わせを行う前に売場の実情をつぶさに確認する。店舗に行ったら必ず売場を見る。これが鉄則だ。
私は、自分が担当する部門の売場以外も見ることにしている。原則として売場全体を見る。初めの頃は自分に関係ない売場を歩いていたら、その売場の担当が変な顔をしていた。しかし、何回も行くうちに慣れてきて、今では、あいさつだけではく、言葉を交わす様になった。

AM.8:20
住関売場

店全体を回った後、住関売場へ。高田主任が文具のゴンドラで品出しをしていた。あいさつをする。すぐに品出し作業を手伝う。店に出向いたら、先ず「手伝い」を実行する。これも”自分の経験”から考え出した私の店舗巡回の鉄則。自分が店舗の売場担当をしていた頃、本部から来るバイヤーは、店舗の仕事をまったく手伝わなかった。それどころか売場の担当者が作業をしていてもそれを止めさせ、自分が指示したい事だけを次々に伝えて、それが終わると引き上げてしまっていた。本部の人間は何を考えているのだ?とその頃思った。日頃は、店舗が大事、売場が全てだ、とか言っているくせに、と思っていた。
高田主任の仕事を手伝いながら、本日の来店目的を話し、9月末の改装の内容を簡単に説明する。主任は事前に送った「改装計画書」をキチンと読んでくれていた。こう言う人ばかりだと、バイヤーの仕事もやりやすいのだ、と思う。

AM.8:40
倉庫チェック

品出しが終わると、主任は朝の主任ミーティングがあるので事務所へ向う。自分は倉庫へ向う。店舗巡回の時は必ず倉庫在庫もチェックする。住関部門は食品に比べて鮮度が気にならないので、在庫管理が悪くなる事が多い。倉庫に入って住関部門の棚をチェックする。発注ミスによる過剰在庫と思われる商品が目につく。ノートを出して記録をとる。棚の奥の方に7月に行ったメーカーフェアの時の残品が山積みされている。フェアを実施すると必ずこうなる。フェア終了後、陳列場所をエンドに移してできるだけ早く売り尽くす様「フェア企画書」で指示してあるのだが。店舗の担当者は、売場を作り替えるのがめんどうなので、倉庫に引き上げてしまう場合がある。

AM.9:15
休憩室で皆と話す

倉庫から休憩室へ戻る。朝礼前になると、店舗のスタッフは皆、休憩室に戻って来て軽い休憩を取るのだ。生鮮のスタッフは朝6時前から働いている。その他の部門スタッフも8:00前後には出勤して、各自の作業に入っている。朝礼前のほんのわずかな寛ぎの時間帯だ。仕事中に話すのと違って、休憩室でコーヒー飲みながら話すのはリラックスしているので話が弾む。店に出向いたときには、できるだけたくさんの人と話しをするように心がけている。

AM.9:30
朝礼出席

本部員は朝礼に出席しなくてもかまわないのだが、自分は必ず出席している。朝礼は全店同じスタイルで実施しているはずだが、その店舗によって色合いが異なる。店長のカラーが朝礼にも出るのだ。だから、朝礼に出るとその店舗の雰囲気がよくわかる。
それに、朝礼に出て、身だしなみチェック、接客用語の唱話、を店舗スタッフと一緒に行うと身が引き締る。

AM.9:40
湖北店出発

朝礼が終わったところで副店長、主任にあいさつして湖北店を出る。次の視察店舗に向う。店を出る前に本部へ電話を入れる。管理課の多田さんに、湖北店を出て、田中店に向う事を告げる。最近は携帯電話を持っているので、いつでも連絡を受ける事ができるが、以前はそうはいかなかった。そこで、本部から出た時は、都度、都度、所在地を本部に連絡する決まりになっていた。時々、連絡を忘れていて、「どこで何してるんだー!」と課長にしかられたものだ。

AM.10:30
田中店着

田中店ではベンダーと売場チェックを行う約束になっている。(株)朝日の営業マンの大下さんが先に来て待っていた。ベンダー・メーカーとバイヤーでどちらがエライという事ではないが、いつも時間前に来て待っている営業マンと、時間に遅れて汗をかきながらドタドタ走ってくる営業マンの2通りのタイプがある。
大下さんは、既に売場を一通りチェックし終えて自分なりに考えをまとめている様だ。
今日のチェックは「問題店分析」というもの。売上、粗利、在庫、何らかの数値が一定のワク外に落ち込むと、この分析を行う。上司から指示される時もあるし、バイヤーが自発的に行う時もある。今回は自発的に実施。自分一人で行うバイヤーが多いのだが、私は最初からベンダー・メーカーの営業マンと一緒に分析する。その方が、分析も早いし、改善計画も早くたてられる。何よりもベンダー・メーカーと同時に売場をチェックするので、問題認識を共通化できる事が良い。

AM.10:40
売場分析

大下さんと一緒に売場へ行く。分析対象は、ラップ、ホイルのゴンドラ3本。この店舗だけが全店平均に対し、10ポイント以上悪い。
初めに大下さんの考え方を聞く事にする。バイヤーによっては、最初に自分の考えを話し、次に自分の考えに対してベンダー・メーカーの意見を聞く、という手法をとっている。どちらが良いかはいちがいに言えないと思う。大下さんの意見は、フェイスの取り方に問題があるという事。特に、ベースのEDLP商品のボリューム不足が問題ではないかと言う。自分もそう考えていたので、その点を解消するよう棚割を組替える事にする。

AM.10:50
棚替え

棚替えをする場合、その都度「棚割表」を作成した上で上司の決裁を受け、その「棚割表」を店舗に送り、店舗の担当者が組み替えの作業をする、という手順をとっている企業が多い。当社でも大規模な棚替えの場合はその方法をとるが、ゴンドラ2~3本までは、問題あり、となったらすぐその場で修正する様に指示されている。
当社の営業本部長は「即断即実行主義」をスローガンにしている。したがって、売場の改善は何よりもスピードが求められる。現在の方法を採用した一年前から、売場がグングン良くなってきた、とベンダー・メーカーからも言われる。以前の方法では書類や資料を作成し決裁をもらうまでの時間の方が長く、決裁までに1ヶ月、作業は1時間、などという事があった。今はそういう事がなくなった。また、バイヤーが店舗に出る回数が増えたのが良い。
大下さんと二人で約40分で作業完了。フェイスを広げた分、溢れた商品が8アイテムあるので、その分の定番をカットするので「返品伝票」を起票してもらう。新しいロケーションを登録するため、ハンディターミナルを持って来てデータを入力する。一通りの作業が終ったところで、売場主任を呼びにいく。主任の山本さんに内容を伝えるためだ。

PM.12:15
田中店発

大下さんと一緒に店を出る。ちょうど昼になったので、食事に行く事にした。当社では本部商談の時、ベンダー・メーカーと一緒に食事をとる事は原則禁止されている。何かの事情で一緒する時は事前に商品本部長に申請する事になっている。しかし、今日の様に店舗で作業応援をもらった場合は、ルールに決められた範囲内での食事同行が許されている。

PM.12:25
昼食

二人で外食レストランに入る。大下さんとは、もう何回か食事を一緒している。商談室ではあまりくだけた話はできないが、本部を離れた場所で食事をしながらだと、プライベートな話も出てくる。だから、大下さんの事は、ご自身の趣味の事、家族構成から子供さんの近況までほとんどの事を知っている。「接待」に発展してしまうと問題も起きるが、食事や飲食を一緒する事は、限度さえ守ればコミニュケーションの場として非常に役立つと自分は考えている。バイヤーの中には、接待を受けている者もいるが、自分は必ず”割り勘”にしている。

PM.13:40
食事終了、出発

大下さんとの話しが弾み、少し長い食事になってしまった。しかし、業界情勢及びメーカーの状況を聞く事ができたので、今日の食事は成功だ。レストランを出たところで、本部に電話を入れる。

PM.13:50
MR

食事の後、大下さんと近くにある他社店舗を視察する。店舗巡回の時は必ず他社も見る様にしている。自分だけで見る時もあるが、極力誰かと一緒に見る様心掛けている。今日は、GMS1店舗、SM2店舗、Drg’S1店舗、HC1店舗を回る。他社の売場を見るのは非常に勉強になる。しかも今日はベンダーが一緒なのでその場で意見交換する事ができ、自分の考えをチェックしてもらえるので、より一層効果的だ。

PM.15:00
神田店着

今日はまだ残りが7店舗。気合いを入れて回らなければ、と自分自身に言いきかせながら車を降りる。

PM.20:30
店舗巡回終了

店舗を巡回する時は、店舗の閉店作業が終了する時間帯まで必ず行動する事にしている。それが私のやり方。巡回を終了する時間については、会社としてのルールは特に決められていないが、私はこうしている。
多くのバイヤーは本部の勤務時間である17:00頃で終了している。しかし、店舗が営業している時間帯に「それではこれで失礼します」と言って退店し、そのまま自宅に直行するのはどうかと思う。他のバイヤーの考えとは別に、自分は自分の考えを通そうと思う。
これから自宅まで約80分。10時頃には帰宅できるだろう。プロ野球放送でも聞きながらゆっくり帰ろう。

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8月某日(木)

AM.7:30
本社着

昨日は一日本部を空けたので、今朝はいつもより早く出社。当社の本部での正式な勤務時間は9:00~17:00だが、その通りになった事はない。朝は早い時は6:30、遅くとも8:30までには出社する。夜は、18:00~22:00の間に退社しているが、18:00台に退社できる事は週に一度あるかないか。反対に21:00過ぎになる事が週に2,3度だ。
本部員になると、残業代は支給されない。代わりに「バイヤー手当」が3万3千円支給される。しかし、勤務時間の長さから見れば、とてもこの金額では合わない。会社の言い分は、能力があれば規定時間内で仕事は十分完了する。だから現状の手当金額で何ら問題ない、と言う事らしい。
しかし、それは机上論で、現実には、①手抜きをして早く帰るか②キチンとした仕事をして遅くなるか、二者択一を迫られる。自分は先ずキチンとした仕事をし、しかる後に手順、方法を改善して少しでも早く帰れる様にしよう、と考えている。だが、様々な改善を工夫して時間を短縮すると、その分、新たな仕事が回ってくる。今も、バイヤー業務とは関係ないプロジェクトの仕事が1つと、営業本部全体のプロジェクト2つを担当させられている。

AM.7:35
新聞を読む

机に着くといつも通り先ず新聞を読む。今朝は時間があるので、2日分の日経と、先週分の日経流通を読む。”日経流通をその日の朝に読める様な身分になりたい”これが当面の夢、と言ったら笑われるかもしれないが、切実な望みだ。
新聞を読み終える。いくつか、気になる記事がある。本当はスクラップしておけば良いのだが、切り抜く事はできないし、わざわざコピーするのはめんどくさい。インターネットを使った新聞記事情報サービスもあるが、自分が読みたい内容と検索キーワードがあっていないので、あまり役に立たない。

AM.8:10
雑誌を読む

商品部では「チェーンストアエイジ」と「食品商業」を定期購読している。しかし、商品部全体での回し読みなので、いつ読めるかわからない。管理職の机の上で止まっている時は手が出せない。時間が空いた時、商品部全員の机の上を探し回る。今朝はたまたま「チェーンストアエイジ」が商品Ⅰ部のバイヤー、松山君の机の上にあったので、シッケイして自分の机に持ち帰って読む。昨年度2月期、3月期の決算特集が掲載されている。会議などで社長や営業本部長から同業他社や流通業界の動向に目を向けなさい、と言われるが、どうもピンと来ない。他社の決算数値を目の前にしても、なにか遠い世界の出来事にしか思えない。
今朝は気を引き締めて、雑誌に載っている数値を読む。しかし、本当のところは今の自分には売上、粗利、といった営業数値しかわからない。決算書を読む力がないのだ。早く経営数値が読める様にならなくては、と焦ってはいるのだが…。

AM.8:30
部長、課長出社

今日はめずらしく、部長、課長の出社が遅そかった。とは言え8:30までに相次いで出社。課長が机で紙コップコーヒーを飲み終えるのを待つ。以前は当社でも管理職には朝のコーヒー、お茶が出されていた。しかし、私が本部に来た時はすでに、各自が自分で自動販売機の紙コップコーヒーを買う、現在のスタイルに変わっていた。今では、朝の飲み物が出されるのは3Fの役員室だけだ。一度でいいから、女性秘書が入れてくれた薫り高いコーヒーを飲みながら新聞を読んでみたい。

AM.8:40
昨日の報告

課長の机に出向き、昨日の店舗巡回の報告をする。店舗巡回をした時は「巡回報告書」を作成して提出する事になっている。報告書は後程作成するが、その前に口頭で概要を報告する。他のバイヤーは「報告書」を提出するのだから、いちいち報告に行かなくてもよい、と考えている様だ。
しかし、自分は必ず報告に行く。いつか読んだビジネス書に「ホウレンソウがビジネスの基本」と書いてあった。同じ仕事をしても「ホウ・レン・ソウ」が上手、下手では評価がまったく違う、とも書いてあった。別に自分への評価を高めたいと、考えているわけではない。課長への報告、連絡、相談を意識的に数多く、しかも早くする様にしてから、課長との関係がスムーズになったのを感じているからだ。

AM.8:55
Ⅲ部ミーティング

全体朝礼や会議が無い朝は部のミーティングがある。ミーティングとは言っても、全員席に着いたままで行うので、堅苦しいものではない。特に議題がある訳ではなく、その時々の注意事項や今後のスケジュール確認が主な内容だ。業務指導的な話しも時々してもらえるので、我々バイヤーにはこのミーティングが最も身近で即戦力になる会議だ。今日は課長から、上期末棚卸を前にした注意事項の話しがあり、その後、部長から「ネットスーパーの現状」という話しがあった。当社ではまだ導入していないが、今後どの様に発展していくか注意深く観察していくべきだ、という事だった。

AM.9:15
報告書作成

昨日の店舗巡回の報告書を作成する。フォームが決まっているので、手元のノートに記録しておいた各店舗の状況と、それに対する自分のコメントを入力するだけだ。尚、昨日は「デジカメ」で各店舗の売場を撮影しておいたので、その写真を資料として添えることにした。バイヤーの仕事にもITが次々に導入されている。IT機器を活用できる人、できない人では仕事の質、速さに大きな差が出てしまう。商品Ⅱ部のKさんは、パソコンが苦手で未だに手書きの報告書だ。資料作成も電卓でやっている。部長から再三注意されているが、本人はもう諦めていて、店舗への異動願いを出しているらしい。自分で”アナログ世代の生き残り”と称している。商品知識、交渉力は抜群、しかも取引先や店舗からの信頼も厚いベテランバイヤーなのだが……。

AM.9:55
チラシ会議

10:00からのチラシ会議に出席の為、4Fの会議室に移動する。チラシ会議は毎月1回行なわれる。この会議で来月1ヶ月分のチラシの内容が検討される。担当部所である販促部の他、商品部、店舗運営部が全員出席する。営業本部長も他の業務が無い限り出席する。
今日の会議では冒頭いきなり営業本部長から、関西地区のKスーパーが打ち出した「安売り中止戦略」について販促部長、店舗運営部長、商品本部長それぞれに意見を発表せよ、との指示が出た。「今日の会議は荒れるぞ!」と直感した。案の定だった。結局、会議が終わったのは13:40だった。チラシの役割、チラシの費用対効果、日替わりの集客効果、といった難問が次々に営業本部長の口から飛び出す。誰も明確に答えられない事に営業本部長がさらに苛立つ、という悪循環であった。
しかし、この件には裏がある。今週の月曜日に開かれた役員会で、この問題が取り上げられたらしいのだ。管理本部長が発言したらしい。今期の当社の販管費は昨対0.7%削減を目標にしているが、7月末までの実績では0.2%しか削減されていない、という報告の後で、ところで「日経流通」にこんな記事が出ていたが、とKスーパーの件を紹介し、当社では今後どういう販促戦略をとっていくつもりなのか、と営業本部長に質問したらしい。
役員会の内容はわかっていたのだから、商品本部長なり、店舗運営部長なりが、販促部長に指示して、当社なりの考え方をまとめさせておくべきだったのだ。私の様なヒラ社員が口を出す事ではないかもしれないが。それにしても販促部長の主体性の無さ、無責任さは私でもイライラする。

PM.13:45
昼食

近くのコンビニで弁当を買って食べる。

PM.14:20
チラシ原稿作成

今日は来週号のチラシ原稿の締切り日だ。原則として毎週木曜日が締切日。毎週、毎週同じ事の繰り返しでイヤになる。作っている方がこんな気持ちなのだから、読む方も乗ってこないだろうと思う。チラシとは別の販促方法を考えるべきだと思うが、ではどうするのだ、と言われると困ってしまう。
チラシ原稿は、販促部が作った「チラシ企画書」にそって作る。企画書では、全部門のカテゴリー構成、品目構成、目安の価格までが決まっているので、バイヤーは最終判断をするだけでよい。それに原稿作成とは言っても、自分の手で原稿を書いたり、パソコンに入力する必要はない。2年前までは、その都度データを入力していたが、今は「チラシマスター」があり、文字も写真もその中から選ぶので1回のチラシの作業は20分位だ。原稿が終わった後は売上予測データを作る。全ての作業が15:30に終了した。
しかし、隣の席の上野君は苦戦している。化粧品メーカーとのタイアップ販促の企画で、販促部ともめているのだ。バイヤーとしては、メーカーから協賛金をもらっている手前、大きな扱いにしてくれなくては困る、と言うし、販促部側は、化粧品にそれだけのスペースは与えられないと拒んでいるらしい。

PM.15:30
休憩

ひと息入れる為、休憩室に向かう。オフィス内は全て禁煙なので、喫煙者はその都度休憩室内の一画に設けられた喫煙所に出向かなければならない。

PM.15:40
ベンダーに電話

自分の携帯電話に何件かのメールが入っていた。ベンダーからのメールが多い。返事の電話を入れる。原則として相手の携帯ではなく、会社の電話に掛けることにしている。
電話をかける時、いつも注意している事がある。事前に必ずメモを書く事だ。本部に来て間もない頃、私の電話の掛け方を見て、聞いていた上司から、何度も何度も注意された。長い! 要領が悪い! と。そして長電話はダメビジネスマンの典型だ、と言われた。それ以来、自分なりに工夫してたどり着いたのが、今の方法だ。電話を掛ける前に、机の上にいつも備えている不用紙をクリップで止めたメモ用紙に、これから話す用件を箇条書きにする。ポイントとなる点は、マーカーしたり、ボールペンで○をつけたりしておく。それだけの事だが、この方法を繰り返すだけで電話の会話がスムーズになった。ベンダー3社に電話する。いずれも来週の商談内容の確認だ。

PM.16:00
プロジェクト会議出席

自分の仕事はバイヤーだが、本業のバイヤー以外の仕事も時々回ってくる。今日の会議もその1つだ。「オフィス環境改善プロジェクト」と言う。社長の発案で今年の春に結成された。なんでも経済界の集まりで知り合った食品メーカーの社長と親しくなり、後日、その会社の本社を訪ねたのだそうだ。その時見たオフィスがあまりにスバラシクて、わが社もこうしなくてはと決意し、翌日さっそく総務部長に命じた。「ただきれいにするだけではダメだ。全社員の意識を変革せよ! だから全部所から代表を出させ、我が社のオフィス環境をどうするべきか、考えさせなさい」となった。その結果、私が商品本部を代表してプロジェクトに参加する羽目になってしまった。
会議とは言っても、総務部長が社長の考えを代弁し、皆がただ黙って聞くだけ。各部所の代表とは言っても、ヒラ社員ばかりだから、この場で発言などできるはずもなく、仮に発言したところで、この場限りのことでしかない。それぞれの部所にもどったら、一応、プロジェクト会議の内容を上司に報告するが、上司が会議の内容を無視したり、別の考えを持っている場合、結局は上司の考えに従うしかないのだから。
まったく、会社は何を考えているのだ、と思いながら2時間、会議室のイスに座っていた。

PM.18:00
退社準備

プロジェクト会議から戻り、その旨課長に報告する。課長は意味ありげに「ごくろうさん」と答える。普段の仕事ではこんなやさしい顔は見せないのに。
机に戻ると、またメモが何枚も貼られている。その中に秋葉店の主任からのものがあった。すぐに電話を入れる。ベンダー・メーカーからのメモは翌日でも良いが、店舗からのメモは、見たらすぐその場で連絡を入れる事を鉄則にしている。仮に時間が無くても、とりあえずメモを見たことだけは連絡し、後で時間ができたら改めて連絡する、と伝える様にしている。
主任からの電話は、商品についてお客様からのクレームがあった、と言う事。詳細はここでは触れないが、主任曰く、「バイヤーはもっと真剣に商品を選んで欲しい。客からのクレームを受けるのは、店舗なんだから。本部の人間は売場の苦労がわかっていない」。こう言う意味あいの事を、ネチネチと繰り返して話す。ウンザリするが、立場上聞くしかない。あの主任はいつもこうだ。本部のミス(今回は私のミスではないが)を見つけると、まるで鬼の首を取ったように電話してくる。

PM.18:30
退社

電話を終える。プロジェクト会議といい、今の電話といい、今日はもう仕事をヤル気がなくなってしまった。そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。課長から声をかけられる。「どうだ、たまには行くか?」と。思わず「ハイッ!」と返事する。課長と呑むのはほんとに久しぶりだ。
最近は若手社員があまり呑まない事と、仕事が終わる時間がバラバラな事、などが理由で呑む機会がめっきり減った。私は酒を呑むのは好きだ。しかし、愚痴や上司の悪口、会社の批判、そういう酒は嫌いだ。そんな事もあってバイヤー仲間との呑み会にはあまり行かない。
しかし、課長と呑むのは好きだ。課長の酒はキレイだ。キレイに酒を呑む。それに、仕事以外の様々な話題が飛び出す、それが楽しい。

PM.23:30
帰宅

今夜は酒を呑んだので、電車で帰ってきた。と言っても、最寄駅まで電車で、駅には女房に迎えに来てもらった。女房に「今夜はゴキゲンネ」と言われる。
家に帰ると、当然の事だが、子供はすでに寝ている。そぉーっと子供のベッドに行き、寝顔を見る。ここのところ、朝は早いし、夜は遅いので起きている子供の姿を見ていない。課長から以前、子供さんの事で次のような話を聞いた。自分は二人の子供にとって、決して、良きパパではなかった。子供の精神形成に一番大事な時である3才から小学校低学年までの期間、自分は店舗勤務だった。土・日・祭日は当然出勤、朝も早く、夜は遅く、子供の顔は寝顔しか見た事がない、という状態が何年も続いた。子育ては女房にまかせっきりだった。その結果、子供は自分になつかず、小学校に入学した頃から子供との関係がシックリいかなくなってしまった。今は本部勤務なので、たまには日曜日も休めるのだが、子供の方が父親と一緒に居るのを嫌う。こちらに”負い目”があるので、強く言う事もできない。それでも、人並みの成績で、クラスの仲間とも仲良くやっている、と女房が言うのでホッとしている。口には出さないが、女房のおかげだ、と感謝はしている。
その時の課長の顔がとても淋しそうだったのを今でもハッキリ憶えている。課長には悪いが自分はそうならないぞ、とその時は思った。しかし、最近の状態は最悪だ。今週は日曜日が休める。久しぶりに子供のために時間を使おう。

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8月某日(金)

AM.5:30
起床

今日は東京へ出張だ。とは言っても新幹線で1時間強なので当然日帰りだ。
新幹線の駅までは女房に送ってもらう。車中で女房から「昨夜はどうしたんですか」と笑われる。

AM.6:55
新幹線

座って行きたいので、次の電車を待って並ぶ。以前は東京までの出張でも「指定席」が許可されたのだが、1年前からは自由席料金しか支給されない事になった。指定でゆっくりしたい、というなら”自腹”を切らなくてはならない。
店舗にいた頃「本部はいい所だぞ。月に何回かの出張があれば、小遣い位は浮かせられる」と耳にした事があった。その時は「ホント?」と思ったが、そうかもしれないな、と本気にした。本社に来て最初の出張の時、その話しを先輩バイヤーにしたら、笑われた。ただ一言「昔はな」という返事だった。

AM.7:30
新幹線車中

今朝、駅の売店で新聞を買う時、悩んだ末に、「日経」と「日経流通」を買う。2紙で310円なり。一般紙とスポーツ紙も買ったから、しめて560円の出費だ。たかが560円と言うなかれ。私の小遣いは月に3万3千円。これで昼食代もタバコ代も払うのだから苦しい。せめて5万円は欲しい、と思っているのだが、「家計はもっと苦しいのよ」と女房に言われて、それまで。
バイヤー仲間と食事に行った時など、給料の事がよく話題になる。皆、自分と同じ状況だ。特に私と同じ世代は、家のローンと子供の養育費、高校、大学の学費の蓄え、これが大きくて大変だ。女房が言うには、彼女の友達の話しを総合すると、「あなたの会社はやっぱり給料が安い」と言う事になるらしい。たしかに、自分の大学時代の友人と比べても、決して高くはない。けれど安くもないと思っている。だが、勤務時間の長さ、休暇の条件等を考慮すると、やっぱり良くはない。
「日経」を読み始めるも、すぐに眠ってしまい「間もなく東京駅」という社内アナウンスで目を覚ます。

AM.8:12
東京駅着

JR山手線、地下鉄を乗り継いで目的の会社に向かう。

AM.8:20
本社へ連絡

途中の乗り換え駅で、本社へ連絡を入れる。今日の出張は昨日のうちに報告しているし、「週間スケジュール表」にも記入してある。しかし、当日の朝一番に連絡を入れるのがビジネスマンの基本、と教えられた。これは、新入社員教育の時、教官役だった当時のバイヤーから教わった。課長はまだ出社していない。昨夜、課長は機嫌が良く、かなり呑んでいたので二日酔いなのかもしれない。管理課の多田さんに、これから日本物産(株)に向かいます、と伝えてくれる様お願いして電話を切る。

AM.8:35
トラブル発生

地下鉄の駅を降りた所で、携帯に着信。本部の多田さんからだ。通話ボタンを押すと、慌てた声で「石神さん、大変です! チラシの売価違いです」と言ってくる。本日が初日のB3チラシ、オモテ面の今日の日替わりコーナーに掲載されている、私の部門の商品である「抗菌まな板」の売価が1,480円であるべきなのに480円で表示されている、と言う。
多田さんからの電話を切って、すぐに販促部の伊藤主任に電話を入れる。伊藤主任はまだ出社していない。しかたなく中村課長と話すも、課長はまだトラブルを把握しておらず、話しにならない。この課長はいつもこうだ。肝心の時に役に立たない。電話を切って、再度商品部に連絡する。課長が出る。すでに多田さんから話しは聞いている様子。課長が言うには「この価格で売るしかないだろう。1点につき852円のアカになり、全店で50万位になるが、それをどうするかは後で検討しよう。店のオープンまであまり時間がないので、チラシ売価のままで売る、という事を全店に指示する、という事だ。
店舗への正式な連絡は課長にお願いして、電話を切る。再度販促部の伊藤主任に電話する。
出社していた。電話に出るなり「申し訳ない! 製作会社のミスだ」と言う。色校正が終了した時点では正しかったのだと言う。しかし、その後、中村課長が、日替わりコーナーのメリハリが弱い、と言い出し「最終校正が終わっているので、もう直りません」と反対する伊藤主任の声を無視して、自分で直接製作会社に電話して、口頭でレイアウト変更を指示したのだと言う。その直しの工程で、売価の組み間違えが発生したらしい、との事。製作会社もミスを認めているので、アカ分は補償させます、と言う事だった。了解して電話を切る。自分のミスでなくて良かった。
1回のチラシで何十万、の損失を出すトラブルが年に1~2回は必ず発生する。過去には数百万円を越えると言う事件もあったらしい。チラシの場合、目に見える業務とは別に、トラブル処理に費やす時間が意外と大きいのだ。
「抗菌まな板」を仕入れている(株)トーヨー貿易に電話する。事情を話し、仕入れ原価を少しでも下げてもらえないか、と交渉する。「アカ」を少なくするためだ。チラシ製作会社が補償する、とは言っても、当社側の販促部にも責任の一端はあるのだから、当社側もできる限りの対応はするべきだと考える。
(株)トーヨー貿易の担当課長とは話しが通じるので、イキサツをそのままぶつける。「わかりました。そう素直に頭を下げられたのでは、なんとかしない訳にはいきませんね」と言う事で、グロスで10万の値引きを起こしてくれる事になった。もっともベンダーはメーカーに値引きをさせるだろうから、10万円分全部をかぶる訳ではない。

AM.9:20
訪問先へ向かう

先方との約束は9:30。今から急いで行けばギリギリ間に合う。ある会社に初めて訪問する時は、30分から1時間前には現地に着く様にしている。早めに着いて、近くの喫茶店でコーヒー飲みながら待機し、時間になったらそこから出かける。こうすれば気持ちに余裕が持てるのと、決して遅刻しない事と、両方に備えられるからだ。今日は新幹線の時間の関係で、1時間位前に着いたがそれが幸いした。

AM.9:28
先方着

約束の2分前に先方の受付を訪ねる。さりげなく、受付嬢の対応と、私が会社名を伝えた時の反応を探る。その会社の全ては受付に表われる。その会社の当社への思い入れも受付嬢の表情に表われる。そう課長から教えられた。事実、以前課長に同行してベンダー訪問した時、応接室で待つ間、受付嬢の対応から予測されるその会社の社風、そして当社への取組み方、をどう判断したかを聞かされた。そして商談が始まり先方の営業マンと話しをして得た感想は、課長が予測した通りであった。
応接室へ通される。立派すぎず、それでいてセンスの良い内装。受付の対応も含めた第一印象は合格点。

AM.9:30
新規ベンダー商談

今日訪ねたのは、日本物産(株)。家庭用品ベンダーの中堅企業だ。前に何度か商談をしている。当社との口座開設を希望している。現状のベンダー構成で特に不都合はないし、各ベンダーともに良くやってくれている。しかし、常に新しいベンダー・メーカーを開発し続けるのがバイヤーの鉄則だ、と考えている。それも、評価の定まった大手ベンダーに声をかけて、取引条件面だけで商談をまとめる様な安直な事はしたくない。中堅企業で、経営トップの経営方針がハッキリしていて、当社との取り組みに取引金額(売上)だけでない何かを求めている、そんな企業を時間をかけて、探していきたいと考えている。
今回の日本物産(株)は、メーカーの営業部長から紹介してもらった企業だ。まだ規模は小さいが、トップの考え方がしっかりしているし、小売業界におけるベンダーの役割というものを過大にも、過少にもとらえず非常に冷静に考えている、という評価だ。いわゆる大言壮語タイプではないらしい。その事は、前に会っている先方の営業部長の雰囲気からも窺い知る事ができた。
今日の訪問を前にして、改めて日本物産(株)の資料を集めた。財務部長にお願いして、銀行筋の評判も入手している。リサーチ会社の情報は初めに入手している。その他、メーカー3社から非公式に日本物産(株)の取引先一覧と取引高、及び小売各社との取引高も聞き出している。
昨日、課長と呑んだ時、日本物産(株)の件を話した。課長からは、「この件はおまえの考え通りやってみろ!」との承諾を得ている。自分なりに出来る限りの事前準備と社内での根回しはしてきたつもりである。

AM.9:35
商談開始

先方は社長、副社長、営業本部長(専務)、財務本部長(常務)、営業部長、担当課長、と幹部総出演。少々気後れするが、すぐに気を取り直す。
型通りの名刺交換の後、先方社長が話し始めた。当然の事だが、いきなり商談には入らない。昨今の国際情勢が話題にのぼる。「最近は日本のメーカーの多くが海外、特に東南アジア諸国に工場を移転しているので、常に相手国の情勢が気になる」という様な話しがあり、インドネシアの政局の話しに移る。一夜漬けではあるが、この2~3日、新聞や週刊紙をよく読んでおいたので、どうにか相槌だけは打てる。しかし、日頃の商談と違い、トップの商談では商品の事や価格の話しはほとんど出ずに、まったく別の世界の話しが中心になるので、苦労する。
しかし、相手のペースで進んでいては、商談そのものにも影響が出てしまうので、話題の先手を取りにいく。事前の商談で先方の営業部長にさりげなく、社長の趣味を聞いておいたので、その話題で攻めるつもりだ。先方が「ところで石神さんは夏休みはどの様にお過ごしでしたか?」と尋ねてきたので、「イヤー、家族サービスですよ。ホントは釣りに行きたかったんですがね。最近釣りにもあまり行けなくて…」と答えておいて「そう言えば、社長さんはカヌーをやるんだそうですネ」と話しを向ける。社長は一瞬「オヤッ?」と言う表情をするが、すぐに嬉しそうな目つきに変わり、「誰からお聞きになりましたか?そうなんですがね。昔は大会にも参加していたんですが、最近はお遊びですよ」と乗ってくる。「国体にも出場したそうですネ」とさらに攻める。後はもう社長が機嫌よく話すのを聞くだけ。途中、2日前に本屋で立ち読みして覚えたばかりの、わずかばかりのカヌーの知識を元に、程よい所で質問を投げかけたりして、話しを盛り上げる工夫もした。
社長の表情が上気加減になったのを見て、話しを本題に切り替える。当社の経営方針、自分が担当する住関部門のポジションについて、今後の出店計画、自分の考えるベンダーの役割、今後のベンダー構成、日本物産(株)に望んでいる事、計画している数値、ここまでを一気に話す。先方はただ頷いて聞いている。「…と言う事で、私としてはぜひとも日本物産さんにその役割を担って頂きたいのです。厳しい事も言いますが、それは将来への投資と考えていただき、どうか一緒に取り組んで頂きたい」と有無を言わせず迫る。
社長は「よくわかりました。当社を指名していただきありがたいお話しです。この場でお約束させて頂きます。」と即答した。
このままではキレイ事過ぎるので、先方の財務内容について質問する。一昨日、財務部長の所に出向き、リサーチ会社からの資料を見せながら、何か問題はないか、質問するとしたらどこを突くべきか、など10分程度ではあるがレクチャーしてもらったのだ。実際の取引にはほとんど関係ないが「このバイヤーは取引先の決定に関し、全権を委ねられているんだな」という印象を相手に与える為に、財務の質問をしたのだ。
ベンダーはしたたかだ。「このバイヤーは単なる窓口だな」とみくびられたら、何回商談を重ねても結論を出さない。それでいて、なるべく早く部長に会わせてくれ、できれば本部長さんに挨拶したい、と自分を飛び越えて商談を進めようとする。

AM.11:40
商談終了

長い商談だった。疲れた。社長以下全員に見送られて、先方の玄関を出る。角を曲がって私の姿が見えなくなるであろう場所まで来ると、全身から力が抜け、頭がボーとなる。「ぜひ食事を一緒に」と誘われたのだが、丁寧にお断わりした。せっかく、自分のペースで商談を進め、台本通りに演じてきたのに、最後の仕上げで食事に飛びついたのでは、全てがパーになる。

AM.11:45
会社に連絡

会社に電話する。折り良く課長が席にいたので、商談の内容を取り急ぎ報告する。課長も喜んでくれる。詳しくは月曜日に報告する事、今日はこれからキッチンツールのメーカー(株)イイダの展示会に出向く事を伝え、できれば直帰したいとお願いする。OKが出る。
展示会に行くのは、本音のところ、バイヤーの息抜きだ。何の役にも立たない。と言うとメーカーに失礼だが、そんなもんだと考えている。課長もそれはわかっているのだが、「ひと仕事」終えたので、「まあいいだろう。たまには遊んでこい」と言う意味で許可してくれる。

PM.12:30
お台場着

JRの「新木場」でモノレール「ゆりかもめ」に乗り換えた。お台場にはもう2年近くも来ていない。新しい店が出ている、と聞いていたので気にはなっていたのだが、機会が作れなかった。
地方都市にいると、どうしても情報への反応が遅くなる。商品情報はベンダー・メーカーからメールを使ってリアルタイムで届く様になったし、自分からもメーカーのホームページにアクセスして情報を入手する事もできる。しかし、店舗の情報だけはそうはいかない。仮に情報が届いたとしても、やはりその店に自分で行ってみないと、ホントの所はわからない。なぜその店が人気なのか、その店の品揃えの何が支持されているのか、などなど、自分も客の一人になって買物をしてみないと、わからない事が多いのだ。

PM.13:30
昼食

約1時間「デックス」の店を回る。多勢の人の中で自を見ると、自分が”お上りさん”状態である事に気づき、落ち込む。東京湾が見えるインド料理のレストランでランチを食べる。しかし、日頃の食事とあまりにも勝手が違い何とも落ち着かない。

PM.13:50
ゆりかもめ

お台場を離れ、展示会の会場へ向かう。

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8月某日(土)

AM.8:30
会社着

今日は土曜日なので本社は人が少ない。管理本部は原則として土・日は休み。それぞれの部所で一人だけが留守番として出勤している。
営業本部では、店舗運営部は留守番一人残して全員が店舗に出ている。商品本部は、交替で週末の休みを取る様になっていて、土曜日でも10人位、本社に出ている。今日の商品Ⅲ部は私と田川さんだけだ。

AM.8:40
休憩室

会社に着き、自分の机に行くと郵便物や宅急便が山積みされていた。先日依頼したカタログや企画書、見積書が一斉に届いたのだ。こうもたくさん来ると見るのもイヤになる。まだ9時前なのでタバコを喫いに休憩室に向かう。
オフィス内に人がほとんど居ない、と思っていたら、休憩室には先客が何人も居た。皆、リラックスしてコーヒーを飲みながら談笑している。土曜日は役員は出社しないし、幹部も休む事が多いので、本社ビル全体から緊張感が抜けてしまう。いっその事、本社全体を一斉公休にしてしまった方が仕事の能率が上がる、という意見も一部にはある様だ。しかし、この件は会長が首をタテに振らないらしい。内容はどうであれ、小売企業の本社が、土・日に完全公休するなどとんでもない話だ、と言われているらしい。魚屋から身を起こし、ご夫婦で365日働きづめ、そうして会社を発展させてきた会長の言葉は重く、社内では誰も反論できない。

AM.8:55
資料整理

机に戻ってから、思い立って資料の整理を始める。日頃から、いつかはやらなければ、とは思いつつも、その時々の急ぎの仕事を優先させてしまい、結局後回しになって手がつかないのが資料整理。乱雑のままでも何とかなってしまうからイケない。ホントは何とかなっていないのだが、なっている様に自分をごまかしてしまう。今日は土曜日で、ベンダー・メーカーからの電話は入らないし、店舗も忙しいので連絡が入る事はまれだ。
先ず机のサイドキャビネットを開ける。自分でも呆れ返る位に汚い。見積書、カタログ、企画書などがグチャグチャに詰め込まれている。さてどうしたものかと考えこんでしまう。各バイヤー皆同じ様な状態だ。整理しない自分も悪いのだが、深型の引き出しが2段あるだけ、というキャビネットの構造にも問題があると思う。
自分がメンバーになっている「オフィス環境改善プロジェクト」で以前この問題を発言し、ファイリング用の壁面収納庫を設けるか、現在のキャビネットに全てハンギングファイルを用意して欲しい、と要請した。自分としては、全バイヤー、と言うより全部所共通の悩みだと考えたから発言した。しかし、プロジェクトリーダーである総務部長は、「そう言う個人的な問題をこの場に持ち込まない様に。第一、そんな事は整理整頓さえしていれば解決するはずだ。あなたがサボッているだけではないか」と言って、まともに取り上げてくれなかった。
バイヤーは皆困っている。カタログが多い部門のバイヤーは特に大変だ。手元に置いておけないから、4Fの資料室の棚に山積みしたままだ。私の隣りの宮城君など探すのがめんどうだ、と言って、必要な時その都度ベンダー・メーカーに依頼して取り寄せている。

AM.10:30
下期計画書作成

キャビネットの整理だけで1時間半もかかってしまった。その割には片付かなかった。ファイルの中身は手つかずだ。以前、パソコンの雑誌で、「仕事の能率がぐんぐん上がる電子ファイルの奨め」という記事を読んだ。ヒマを見て研究してみようか、と思ったけど、そのうち誰かがやるだろうからそれまで待つか、と自分をゴマ化して結局何もしなかった。
下期計画書は例年8月上旬までに提出する事になっている。前年度中に新年度の通期、上期、下期の計画をまとめて作成し、提出しているのだが、上期の状況を踏まえ、当初計画を見直す事になっているのだ。
先ず3月~7月の実績を分析する。机上のパソコンを立ち上げ、販売実績のデータベースを呼び出す。自分のIDコードを入力し、部門データを呼び出す。エクセル形式に編集された販売実績データが画面に表われる。
こう書くと、なにかとてもカッコ良く聞こえるのだけれど、実のところたいしたデータは表われない。画面で見られるのはPOSデータを集計した「一次データ」のみ。後は自分でデータ加工しなければならない。売上分析に使う数値はほとんど決まっているのだから、定型のフォームで出力してしまえば良いのに、と思うのだが。なんでも、システム部長の考えでそうしないのだそうだ。「データは各自が用途に応じて、自分の考え方で作成するものだ。そこにビジネスマンとしてのノウハウが表われる」のだそうだ。
立派なご意見だが、やらされる方はたまらない。データを作るのに時間がかかってしまい、分析をし、対策を立てるという段階で時間が足らなくなってしまった、という事がよくある。特に、カラープリンタが導入されてから、皆が競ってキレイな資料を作ろうとする様になり、以前の倍の時間がかかっている。
ある会議で、カラーのグラフを多用した資料を見て、社長が「これはわかりやすい。これからはこういう資料を作りなさい」と発言したのがキッカケだ。私も後でその資料を見せてもらったが、中身はクダラナイのに、やたらと図形が並んでいる資料だった。

PM.12:30
データの取り込み

結局2時間かかって、カテゴリー毎の月別の「昨対伸び率」を表とグラフで表示し、それをプリントするまでしかできなかった。残りは明日が公休なので、自宅でやる事にする。そのために、FDにデータを取り込む。販売実績データをFDに落すことは、以前は禁止されていた。機密保持のためだ。しかし、店舗で仕事をしたり、自宅に持ち帰って資料作りをするバイヤーが多く、条件付きで許可になった。
今日も事前に部長に申請書を提出し、許可を受けている。申請書とは言っても、形式的なものだ。”データの流出”はあり得るだろうな、とまるで他人事の様に考えながら、FDをバックにしまう。

PM.12:40
退社

今日は午前中だけ仕事をし、早退する。結婚披露宴に出席するためだ。本部に来る前に勤めていた店舗で売場主任をしていた時の後輩が結婚するのだ。
店舗スタッフが結婚する場合、披露宴はなるべく週末を避けて平日にやる様に、と言われている。しかし、当人の立場になると相手の家族への配慮もあり、平日にして下さい、とも言いにくいのが実情。結婚するほとんどの人が土日に行っている。祝い事なので会社側も強く言えないらしい。しかし、暗に会社側の考えを強制する様に、店長に働きかける。
会社と本人の間に立って苦しむのは店長だ。ところで、今回はさらに仲人の件でもめたらしい。なんでも新婦側のお父さんが、それなりの規模の建設会社を経営しているという事で、新婦側の出席者は銀行の頭取や、国会議員も顔を揃える、との事。それで、仲人にはそれなりの人を立ててくれないと困る、と言われ、彼は、当社の社長に仲人を依頼しようとした。その旨、店長にお願いしたところ、店長は困惑してしまった。店のヒラ社員の仲人を社長にお願いした前例はないからだ。それに、昨年、ある店舗の副店長が結婚する時、社長に仲人を依頼しようとして、店舗運営部で問題になった事を知っているからだ。
案の定、エリアマネジャーに相談したところ、ハッキリとした事は言わないまま、店長にゲタを預けてしまった。本人は新婦の親から、「社長に仲人も頼めないようなヤツには娘はやれん!」と言われ、ショックを受けて店長に「なんとかしてくれないか」と泣き顔で頼み込んできたと言う。
結局、この件は、先方の取引銀行と当社の取引銀行が同じという事で、銀行が間に入り、今回は特別という形にして社長が仲人を受け、無事今日の披露宴にこぎつけた。
会長の時代には社員数も少なく、会長自身が祝い事が大好きな性格もあり、頼まれた仲人は全て引き受けていたので何の問題もなかったようだ。しかし、社員数も格段に増えた現在、仲人の依頼を全て受ける訳にもいかず、何らかの形で”線引き”が必要と思う。しかし、肝心の店舗運営部が動かないので、いつも、その場になってトラブルが起きるのだ。小売業の場合、本部と店舗では組織形態も違うし、会社に対する意識にも温度差がある。そこから生じる様々な問題を調整するのが店舗運営部の役目と思うのだが。
当社の店舗運営部は、”事なかれ主義”と言うか、キレイ事ばかり口にしている。そのくせ、いざとなると、逃げ腰での対応に終始し、自ら泥をかぶる気などまったく持ち合わせていない。

PM.14:30
披露宴会場着

当初は、土曜日ということで、店からは副店長が代表して一人出席する、という事だったらしい。しかし、社長が仲人をすることになり、状況が一変。本部からは営業本部長、店舗運営部長、エリアマネジャーが出席し、店舗側は、店長、副店長、売場主任と新郎の仲間2人が出席。それに、他店に異動になっているかつての同僚が3人、出席する事になった。店長以下幹部が不在になるその店舗には他エリアのマネジャーと他店の店長が応援に出向いている。

PM.15:00
開宴

当社の営業本部長のあいさつを聞きながら、当社関係者は皆下を向いてしまった。あまりにも歯の浮いた”よいしょ”だったからだ。私のテーブルは店舗関係者だけ。さながら店舗の同窓会だ。結婚した本人には悪いが、こんな機会でもなければ、昔の仲間がこうして集まる事もない。その上、昼間から酒を飲めるのだから、ありがたい話だ。
とはいえ、出席するにはそれなりの「お祝い」を持参している訳で、その出費は痛い。社長や役員は会社から出るらしいが、我々は皆自腹だ。披露宴に出るたびに2万円(これが当社での目安)がサイフから消えてしまう。若いスタッフが多い店舗の店長は大変らしい。昨年のことだが、ある店長は1年間に14回の披露宴に出席した、という事で話題になった。自分の店の部下の披露宴が6回、パートの分が2回、同僚の店長、副店長の分が2回、エリア部長の分が1回、本社の勤務になっている同期入社の仲間の分が1回だったそうだ。

PM.17:30
宴会場を出る

会社のトップが何人も同じ会場にいては、気疲れする。披露宴が終わったところで、すぐに幹部にあいさつして会場を出る。久しぶりなので、皆で二次会に行くことになった。社内の様々な部所の人間が集まるのは、情報交換という意味でもなかなかおもしろいものだ。日頃、話す機会のない開発部の人間の話を聞いたりするのは勉強になる。

PM.20:45
帰路へ

今週は外に出る事が多く、目まぐるしかった。今夜はゆっくり休もう。明日は久しぶりの日曜休み。

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8月某日(日)

AM.8:00
起床

女房の掃除機の音で目が覚める。窓の外で蝉の鳴き声が夏の盛りを伝えている。ボーとする頭の中で考える。今日は休みなんだ、と。私は「ワーカーホリック」ではないけれど、ここ2年位は、仕事人間の仲間入りをしている事だけは確かだ。
会社に行かない、行かなくてよい、と言う事がベッドの中の頭にはまだよく理解できていない。

AM.8:30
リビングで

顔も洗わないままで、リビングのソファーに座って新聞を読む。以前は日曜日の新聞はニュースが少なくてつまらない、と思っていた。しかし、最近では「読書欄」を読むようになり、日曜日の新聞が楽しみになった。バイヤーの仕事をする様になって、少しずつではあるが、自分が変わってきている。

AM.8:40
朝食

子供達は昨日から、女房の祖父母の家に遊びに行ってしまった。と言うより、祖父母が孫と遊びたくて、連れて行ったのだ。女房の祖父母は私の事を心良く思っていない。仕事ばかりして家庭を大事にしない、と言っているらしい。
女房はすでに朝食をとった、というので、自分一人でパンを焼き、コーヒーを入れる。1年位前からだが、休みの日には自分で台所に立ち、調理したり、片付けをする様になった。商談室のテーブルの上で手にとって眺めたり、触ったり、という時の商品と、実際に台所の中で洗ったり、使ったりする時の商品とは、まったく別の顔を持っている事がわかった。
今日は先週、自分の会社の店から買ってきたコーヒーミルを使ってコーヒー豆を挽き、引き立てのコーヒーの香りを楽しんでみた。女房は「いつまで続くかしら?」と冷ややかだ。

AM.9:00
計画書作成

昨日、会社で片付けるはずだった「下期計画書」の作業を始める。家には自分用のノートパソコンが備えてある。もちろんプリンタも買った。パソコンなどない時代には、自宅で仕事する、と言っても出来る範囲は限られていただろうに。今は、データさえ持ってくれば、自宅で何でもできてしまう。パソコンと携帯電話のおかげで、ビジネスマンは1年365日、会社も自宅も関係なく仕事に追われる事になってしまった。

AM.11:30
祖父母宅へ

「計画書」作りは終了しないが、切り上げる。これから女房の実家に子供達を迎えに行く。

PM.13:00
三幸川でがんばって遊ぶ

子供達を迎えに行きその帰り、回り道をして三幸川の河川敷で昼食。女房が朝から作ったおにぎりや玉子焼を芝生の上に広げて家族4人で食べる。親子の食事は久しぶりだ。しかもアウトドア。食事の後、子供と遊ぶ。川遊びや砂遊びが楽しい。

PM.16:30
買物へ

三幸川からの帰り道、夕飯の買物に近くのGMSに寄る。自宅の近くには当社の店舗はない。もし近くにあったら、休みの日も気が休まらないだろう。自社の店を避けて他企業の店に買物に行く訳には行かないし、かと言って、自分の店に買物に行ったら仕事になってしまうし。

PM.16:45
店内視察

女房と子供達と一緒に店内の全フロアーを歩く。自分一人で歩くと、どうしてもバイヤーの目線になってしまうので、女房に先に歩いてもらい、自分はその後をついて行く。自分が先にコメントするのでなく、彼女の感想をまず話してもらう。自分の考えと女房の考えがまったく異なる時もあるし、ピタリと一致する時もある。

PM.18:00
早い晩酌

子供達は川遊びで疲れたのだろう、早々と寝てしまった。女房が夕飯の支度をする。「あなたが作ってくれるの?」とからかわれたが、朝だけで十分。一人でテレビを観ながらビールを飲む。この時間にビールを飲むと「休みだー」と実感する。
ビールを2本飲んだところで眠くなる。ソファーの上にゴロンと横になる。
こうして、一週間が終わった。

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おわりに

いかがでしたか。石神さんの一週間は。
今回の主人公、石神さんは架空の人物です。ですが、まったくの想像で書き上げた人物ではありません。
私が普段、仕事でお付き合いしている何人ものバイヤーさん達の話しを総合して、最大公約数的にまとめ上げた人物です。
石神さんの一週間を通じて、日本の小売企業のバイヤーの実像を理解してもらえたら幸いです。
もちろん、まだまだ語り切れない部分もあります。そこのところは、営業マンの皆さんが日常お付き合いしているバイヤーをじっくり観察して、皆さん自身の手で、続編を書き上げてください。

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